文維くんのこいびと

「文維お兄ちゃま~」

 電話を切り、その先のことを考えて気の重い文維の下に、キッチンから煜瑾が跳ねるように戻って来た。

「どうしました?」

 弾むような小さな体を抱き留め、文維は穏やかな笑顔で煜瑾を見た。

「おかあしゃまのバナナミルクができました~」

 たったそれだけのことが、嬉しくてならないという満面の笑みの煜瑾だ。それが純真で、あまりに清らかで愛おしい。

「さあ、文維もお相伴なさい」

 キッチンから、トレイに乗せたグラスを、3つ運んできた恭安楽は言った。

「あ、いえ…私は甘いものはあまり…」
「バナナの甘さだけだよ。健康にいいのだから、文句を言わずに飲みなさい」

 そう言って包夫人が文維の前にグラスを置くと、煜瑾は自分の場所と決めたソファの隅にお行儀よく座って、自分の番を待っている。

「本当に煜瑾ちゃんはお利口さんね。これは煜瑾ちゃんの分ですよ」
「ありがとうございましゅ、おかあしゃま」

 心から嬉しそうにニッコリと笑い、煜瑾は両手でグラスを持ち、自分のグラスにだけ用意されたストローでバナナミルクを飲み始めた。

「お味はいかが、煜瑾ちゃん?」
「とっても!とってもおいしいです、おかあしゃま!」

 そう言って煜瑾は一度グラスを置き、ギュッと恭安楽に抱き付いた。

「おかあしゃま、こんなにおいしいのを煜瑾に作ってあげて、大しゅき!」
「まあ、なんて可愛らしいことをいうのかしら、煜瑾ちゃんってば」

 楽しそうに抱き合い、バナナミルクを飲み、1つだけブラウニーを食べる、恋人と母を見る文維の眼差しは切なく、暗い表情だった。

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