おかあさまといっしょ

「おかあしゃま!おかあしゃま!」

 煜瑾は急いでお母さまに駆け寄り、声を掛けた。

「…、いく、き…ん…?」

 お母さまはゆっくりと目を開いたが、目の前の煜瑾の心細げな顔に、ハッとして身を起こした。

「良かった!煜瑾ちゃん、怪我は無い?痛いところは?」

 恭安楽は、すぐに幼い体を気遣ったが、煜瑾は涙目を堪えて静かに笑った。

「おかあしゃまは?どこも痛くないでしゅか?」

 無垢で純粋な心しかない煜瑾は、これほど幼くとも恭安楽を気遣う。その思いやりが嬉しくて、恭安楽は小さな煜瑾の体をギュッと抱き締めた。

「お母さまは、煜瑾ちゃんが無事なら大丈夫よ」

 お母さまの柔らかく温かく優しい胸に抱かれて、ようやく煜瑾は安心した。

「あのね、おかあしゃま」

 煜瑾は寂しさを打ち消すように、ギュッとお母さまに抱き付いた。

「なあに、煜瑾ちゃん」

 稚く、純粋な煜瑾が愛らしくで、抱き締めた幼子を慰めるように、恭安楽は煜瑾の小さな背中を何度も撫でた。

「煜瑾、泣かなかったでしゅよ。おかあしゃまのことが心配で、ちょっとだけ怖かったでしゅけど、泣かなかったのでしゅ」
「頑張ったのね、煜瑾ちゃん。偉いわ~」

 大好きな母のために我慢した自分を褒めて欲しくて、煜瑾はそう言って、お母さまに縋りついた。そして白くて柔らかな頬を寄せて、甘えて見せた。

「それにしても…。困ったわ。ここから出られないみたい」
「おかあしゃま…」

 周囲を見回して、困った様子のお母さまに、煜瑾も不安になる。そんな煜瑾を可愛い笑顔に戻そうと、お母さまは満面のカワイイ笑顔で言った。

「大丈夫よ。煜瑾ちゃんには、お母様がずっと傍にいますからね。心配はいりませんよ。それに、きっともうすぐ、文維お兄様が助けに来てくれるわ」
「文維おにいちゃまが?」

 煜瑾はお母さまの美しく、お優しいお顔を見上げて、大きく黒く清らかな瞳をキラキラと輝かせた。

「そうよ。煜瑾ちゃんが文維お兄さまを大好きなのと同じか、それ以上に、文維お兄さまも煜瑾が大好きで、離れたくないのだもの。きっともうすぐ、煜瑾ちゃんに会いたくて、助けに来てくれるわよ」
「わ~」

 煜瑾は嬉しくて愛らしい笑顔を浮かべた。それが見ている者を胸いっぱいにするような、明るく幸せそうな笑顔だったので、恭安楽も満足そうに大きく頷いた。









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