文維くんのこいびと

 考えあぐねた包文維は、煜瑾を連れて実家である唐家を訪問することにした。
 このまま精神や記憶が退行し、「唐煜瑾」ではなくなる前に、家族に会わせておくべきだと思ったのだ。
 このことで、兄の唐煜瓔は文維のことを責めるかもしれない。憎まれ、煜瑾と引き離されることになるかもしれない。それでも仕方が無いと文維は諦めていた。
 すでに、文維が愛した「唐煜瑾」はそこにはいないのだ。
 今、この幼い煜瑾と引き離されたとしても、「煜瑾」を失った事実は変わらない、と文維は思った。

「この子が昼寝から目覚めたら、私はこの子を連れて唐家へ行きます」

 心配そうな母を前にして、文維はようやくそれだけを言った。母もまた、何も言わずに頷くだけだ。

 2時間後、小さな天使は目を覚ました。ぐっすり眠れたせいか、目覚めた瞬間からご機嫌が良かった。

「おかあしゃま~」
「はいはい、ここにいますよ」

 とにかく愛らしい天使に心を奪われている恭安楽は、ニコニコと喜んで相手をしている。

「煜瑾はね、ジュースが飲みたいの」

 寝起きで喉が渇いているのだろう。天使の笑顔で甘える煜瑾に、包夫人は楽しそうにリビングのソファから立ち上がった。

「まあ、ジュース?では、キッチンにバナナがあったから、オヤツにバナナミルクを作ってあげましょうね」
「オヤツ?バナナミルク?」

 キッチンへ向かおうとする包夫人を、煜瑾も慌てて後を追おうとする。

「そうよ。煜瑾ちゃんは、バナナミルクはお嫌い?」
「いいえ。でも…オヤツはおかあしゃまのケーキが食べたいでしゅ」

 包夫人のお手製の焼き菓子が盛られたリビングのローテーブルを振り返りながら、思い詰めたような顔をして煜瑾が訴えた。





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