おかあさまといっしょ

 煜瑾は、お母さまと楽しくお話を続けた。

「それから、煜瓔お兄さまもご一緒だと、もっとステキじゃないこと?」

 楽しそうなお母さまの笑顔に、煜瑾の愛らしく高貴な美貌も輝く。

「しゅてき、でしゅね。あ!しょれから、胡娘ねえやと、茅執事と、楊シェフも~。あと~、しょれから、ね~」

 ちょっと考え込んだ煜瑾に、お母さまがヒントを下さった。

「あ、小敏も一緒にいたら楽しいわよ」
「じゃあ、玄紀も~」

 2人は互いに美しい顔を近づけ、クスクスと笑った。

「煜瑾さま、ラズベリーのマカロンが残っておりますよ」

 胡娘の言葉に、イチゴの次に好きなラズベリーマカロンを食べたくて煜瑾は慌てて振り返った。

「ピしゅタチオは?ピしゅタチオのマカロンは、おかあしゃまがおしゅき…なの…」

 楽しそうに言いかけた煜瑾が、見る見るうちに蒼白となり、廊下ではなく、胡娘の背の向こうに見える煜瑾の寝室の方へ繋がるドアをジッと見つめた。

「煜瑾さま?」

 煜瑾の様子がおかしいことに気付いた胡娘と恭安楽は、ドアの方を煜瑾同様に注視する。
 すると、2人とも声を出すことなく、表情だけがサッと変わった。

 見ると、寝室に続くドアの細やかな細工のノブがゆっくりと回った。

 怯える煜瑾を黙って抱き止め、胡娘は恭安楽の許に届ける。それを受け止め、お母さまは煜瑾を決して手放すまいと、ギュッと抱き締めた。

 幼い煜瑾であったけれど、きちんと現状を把握しているのか、泣くこともせず、緊張した面持ちではあるものの、しっかりとお母さまの腕を掴み、落ち着いていた。

「お利口よ、煜瑾ちゃん。心配しないで。煜瑾ちゃんには胡娘も、お母さまもついていますからね」

 耳元で小さく囁いたお母さまの声に、煜瑾はコクンと頷いた。

(早く!早く誰か助けに来て下さい!私はどうなっても、煜瑾さまと奥様だけは、どうかご無事に…)

 胡娘がそう強く念じながら、ギュッと目を閉じた瞬間、周囲が暗くなったような気がした。

「煜瑾ちゃん!」

 恭安楽の悲鳴に、胡娘が目を開けると、やはり周囲は漆黒の闇で、声を上げた恭安楽はもちろん、彼女にしっかりと抱きかかえられているはずの煜瑾の姿も見えない。

「奥さま!煜瑾さま!」

 暗闇の中、手探りで2人を探していた胡娘だったが、次の瞬間、息を呑んだ。そしてハッとしたのも束の間で、すぐに自分が立っていた床が無くなったことを感じた。

「煜瑾ちゃん!」
「おかあしゃま!」
「煜瑾さま!奥さま」

 3人は大きな声で叫びながら、どこか分からない、深く深く暗い場所へと落ちて行った。




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