おとうさまといっしょ

 小さな煜瑾は、夢の中で、とてもいい匂いがすることに気が付いた。

(ん~、これは、煜瑾の大しゅきなお肉の匂い?トマトソースの匂いもしましゅ。甘~いデザートの匂いも…)

 煜瑾の大好きな食べ物の香りに包まれて、幸せな気持ちでゆっくりと目を覚ました。

 ベッドの上に起き上がり、周囲を見渡すと、そこは煜瑾が大好きな文維おにいさまの実家である包家の高級アパートで、ずっと文維おにいさまが使っていらした寝室だった。

「…文維、おにいちゃま?」

 1人では寂しくなった煜瑾は、大好きなお兄さまを呼んだ。それから、もう一度、胸いっぱいに美味しい匂いを吸い込んだ。

「起きたのかね、煜瑾」

 その時、文維お兄さまの寝室のドアが開いた。すると、煜瑾の好きな物ばかりのイイ匂いが、いっそう部屋に充満する。
 その美味しい香りと共に、部屋に入ってきたのは、背が高く、スラリとして、物腰優雅な男性だ。

「文維おにいちゃま?」

 煜瑾はそのシルエットが、大好きな文維お兄さまにソックリではあるが、どこか違う気がして、不思議そうに声を掛けた。

「残念だが、文維は仕事に行ったよ」
「おとうしゃま!」

 そこには、優しくて、穏やかで、お料理上手で、大好きな文維お兄さまによく似た、包伯言がいた。おとうさまの存在に気付いて、煜瑾はパッと晴れやかに笑った。

「おとうしゃまだったのでしゅね!とっても美味しい匂いがして、煜瑾は嬉しくて起きたのでしゅよ!」

 ウキウキした様子で煜瑾がそう言うと、お父さまは両手を広げた。迷うことなく、煜瑾はベッドから飛び出してお父さまに抱き付いた。

「おとうしゃま?」
「なんだい、煜瑾?」
「煜瑾の大しゅきなお肉のお料理はありましゅか?」

 期待たっぷりに煜瑾が訊ねると、包教授は我が意を得たりといった表情で楽しそうに頷く。

「紅焼肉だね?もちろん用意してあるよ」

 その答えに煜瑾も満足げだった。

「あとね、エビ団子のトマトソースと、しょれから、フルーツのタンフールーと…」

 煜瑾は嬉しくて慌てて、お父さまに作って欲しい大好きなメニューを次々に口にする。

「ん~と、カスタードのマントウと、ライチのスープと…」

 無邪気な煜瑾のお願いに、日頃物静かな包教授も、とうとう声を上げて笑った。

「分かっているよ。煜瑾の好きな物なら、なんでもある」
「わ~、煜瑾、とっても嬉しいでしゅ。おとうしゃまが、煜瑾の大しゅきなものをいっぱい作って下しゃったの~」

 はしゃぐ煜瑾を愛し気に見守っていたお父さまだったが、ゆっくりと煜瑾を抱き上げると、文維お兄さまの寝室を後にして、美味しいお食事とデザートが並んだリビングの方へと向かった。

「さあ、食事にしよう」





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