第1章 華麗なるマジックショー
「おかあさま、ステキです!まるで女優さんのようです!」
「本当にステキだよ、叔母さま!とってもキレイだ」
煜瑾と小敏は素直に恭安楽を褒めた。
文維も驚いた様子で、父である包教授の方を見つめた。包教授は、絶賛される妻を満足そうに見守っている。
包夫人である恭安楽は、鮮やかな若草色の、細やかな手作業だと分かるレースのロングのチャイナドレスで現れた。
髪も高く結い上げられ、控え目なダイヤモンドの髪飾りがキラキラとしている。イヤリングとネックレスはお揃いの大粒のパールで、手首には深い色の翡翠。指は宝石のついていない金の結婚指輪とドレスの色に合わせたのか大きなエメラルドが光っていた。
肩からはこれも手編みと分かる真っ白なレースのケープを羽織り、手にはヨーロッパで有名な皮製品のハイブランドのクリーム色のクラッチバッグを持っている。靴も同じクリーム色だが、ゴールドのパイピングが施された往年の一流ブランドの人気商品だ。
これほどに精巧な手製のレースなど、現代ではいくらお金を積んでも手に入らないと思われるほどの高級品だ。ドレスに装飾品など、値段をつけられないような物もあるとはいえ、合算すればとても一介の大学教授の妻に用意できるはずもない贅沢品だった。
「うふふ。ちょっと頑張っちゃった」
ちょっぴり照れながらも、嬉しそうな恭安楽は、隣で笑う優しい夫にチラリと視線を送った。
「若い頃の物を引っ張り出してきたわ」
包教授と結婚する前の恭安楽は、北京の中央政府の重鎮の一人娘として思うがままに暮らしていた。一般人に自由な海外旅行が解放されていない時代に、父と共に海外を飛び回ることができる立場だった。
特別待遇の裕福な若い娘が、国内では見たことも無いような、華やかで美しい物に出会えば、値段を確かめることも知らずに欲しい物を欲しいだけ買い集めたくなるのも、分からなくもない。
そんな世界から、たった1つの恋のために何もかもを捨てて(ただ荷物の中には高級なものがぎっしりと詰まっていたのだが)、単身上海の包伯言の元へとやって来たのだ。
「若い頃って…。それを今でも着られるっていうのが素晴らしいよ、叔母さま!」
「全然古い物って感じじゃありません。どれも最高級品ばかりなのですね」
「よく残してありましたね」
小敏、煜瑾、文維、3人の「息子」たちそれぞれが感想を述べるが、恭安楽はご機嫌な様子でにこやかにしている。
「叔父さまもカッコイイ!叔母さまが選んだの?」
笑っているだけの無口な包教授は、いつものように余計なことを何も言わずに頷いた。
「オーダーメイドは間に合わないから、上海中のテーラーを駆け回ったのよ」
自慢げな恭安楽に、煜瑾も感激して大きな黒い瞳をキラキラさせている。
「いいえ、まるでオーダーメイドのようにおとうさまにお似合いです」
上品なチョコレートブラウンの、マオカラーのスーツを着た包教授だが、いわゆる昔ながらの中山装(人民服)というようなものではなく、モダンなサイドボタンのスタンドカラーのスーツという感じで、金の刺繍がされた華やかさの中にも落ち着いた印象を与えるスタイルだった。
スラリと背が高く、知的で紳士的な包伯言にはよく似合っている。
「今日のために、みんなステキな装いで集まれたわね。楽しいわ」
はしゃいでいる恭安楽に男性陣は大きく頷いた。
「ん?」
小敏が、また劇場の入口辺りがざわついた様子なのに気付いた。
今夜のショーは、ほとんどが招待客で、市政府の有名人から、芸能人、包教授のような教育者から、顔を知られた大企業の経営者など、上海中のセレブが揃っている。
それらの人々が互いに挨拶を交わし、その様子をマスコミや一般客に、見せつけている。
「あ、あれは…」
煜瑾が人混みの中で、次から次へと挨拶を受ける「有名人」を見つけた。
「済まない、遅くなってしまったね」
「お兄さま!」
思わず煜瑾が駆け寄りハグをしたのは、上海を代表する最後の独身貴族と呼ばれる、容姿端麗な大富豪の唐家の現当主だった。
「本当にステキだよ、叔母さま!とってもキレイだ」
煜瑾と小敏は素直に恭安楽を褒めた。
文維も驚いた様子で、父である包教授の方を見つめた。包教授は、絶賛される妻を満足そうに見守っている。
包夫人である恭安楽は、鮮やかな若草色の、細やかな手作業だと分かるレースのロングのチャイナドレスで現れた。
髪も高く結い上げられ、控え目なダイヤモンドの髪飾りがキラキラとしている。イヤリングとネックレスはお揃いの大粒のパールで、手首には深い色の翡翠。指は宝石のついていない金の結婚指輪とドレスの色に合わせたのか大きなエメラルドが光っていた。
肩からはこれも手編みと分かる真っ白なレースのケープを羽織り、手にはヨーロッパで有名な皮製品のハイブランドのクリーム色のクラッチバッグを持っている。靴も同じクリーム色だが、ゴールドのパイピングが施された往年の一流ブランドの人気商品だ。
これほどに精巧な手製のレースなど、現代ではいくらお金を積んでも手に入らないと思われるほどの高級品だ。ドレスに装飾品など、値段をつけられないような物もあるとはいえ、合算すればとても一介の大学教授の妻に用意できるはずもない贅沢品だった。
「うふふ。ちょっと頑張っちゃった」
ちょっぴり照れながらも、嬉しそうな恭安楽は、隣で笑う優しい夫にチラリと視線を送った。
「若い頃の物を引っ張り出してきたわ」
包教授と結婚する前の恭安楽は、北京の中央政府の重鎮の一人娘として思うがままに暮らしていた。一般人に自由な海外旅行が解放されていない時代に、父と共に海外を飛び回ることができる立場だった。
特別待遇の裕福な若い娘が、国内では見たことも無いような、華やかで美しい物に出会えば、値段を確かめることも知らずに欲しい物を欲しいだけ買い集めたくなるのも、分からなくもない。
そんな世界から、たった1つの恋のために何もかもを捨てて(ただ荷物の中には高級なものがぎっしりと詰まっていたのだが)、単身上海の包伯言の元へとやって来たのだ。
「若い頃って…。それを今でも着られるっていうのが素晴らしいよ、叔母さま!」
「全然古い物って感じじゃありません。どれも最高級品ばかりなのですね」
「よく残してありましたね」
小敏、煜瑾、文維、3人の「息子」たちそれぞれが感想を述べるが、恭安楽はご機嫌な様子でにこやかにしている。
「叔父さまもカッコイイ!叔母さまが選んだの?」
笑っているだけの無口な包教授は、いつものように余計なことを何も言わずに頷いた。
「オーダーメイドは間に合わないから、上海中のテーラーを駆け回ったのよ」
自慢げな恭安楽に、煜瑾も感激して大きな黒い瞳をキラキラさせている。
「いいえ、まるでオーダーメイドのようにおとうさまにお似合いです」
上品なチョコレートブラウンの、マオカラーのスーツを着た包教授だが、いわゆる昔ながらの中山装(人民服)というようなものではなく、モダンなサイドボタンのスタンドカラーのスーツという感じで、金の刺繍がされた華やかさの中にも落ち着いた印象を与えるスタイルだった。
スラリと背が高く、知的で紳士的な包伯言にはよく似合っている。
「今日のために、みんなステキな装いで集まれたわね。楽しいわ」
はしゃいでいる恭安楽に男性陣は大きく頷いた。
「ん?」
小敏が、また劇場の入口辺りがざわついた様子なのに気付いた。
今夜のショーは、ほとんどが招待客で、市政府の有名人から、芸能人、包教授のような教育者から、顔を知られた大企業の経営者など、上海中のセレブが揃っている。
それらの人々が互いに挨拶を交わし、その様子をマスコミや一般客に、見せつけている。
「あ、あれは…」
煜瑾が人混みの中で、次から次へと挨拶を受ける「有名人」を見つけた。
「済まない、遅くなってしまったね」
「お兄さま!」
思わず煜瑾が駆け寄りハグをしたのは、上海を代表する最後の独身貴族と呼ばれる、容姿端麗な大富豪の唐家の現当主だった。
