第1章 華麗なるマジックショー

 その日は日曜日で、文維も煜瑾も休日のため、朝もゆっくりと過ごし、午後からは夜に行く「サイコロジカルイリュージョン」観覧ための衣装を考えたり、どんなショーなのかウキウキしながら想像したり、美味しいお茶を楽しんだりして、アッという間に夕方になった。
 ショーが行われる「金煌麗都劇場」は、文維と煜瑾が暮らす嘉里公寓から、地下鉄の南京西路駅を挟んですぐ近くにあり、2人は劇場までは歩いて行くことにしていた。

 劇場は今日がこけら落とし公演だった。新装した劇場は、内装はもちろん、匂いまでも真新しく、煜瑾も浮かれた気持ちになった。

「あ、煜瑾!文維!」

 劇場の玄関で文維が招待券を出すと、すでに劇場を入ってすぐのロビーにいた小敏が声を掛けてきた。

「早かったのですね、小敏」

 親友の出迎えに、嬉しそうに笑いながら、煜瑾は駆け寄った。

「だってさ~。招待客はウェルカムパーティーにも出られるっていうからさ~」

 いつもと変わらない、愛くるしいまでの童顔で笑う小敏の手には、すでにシャンパンのようなものが入ったグラスが握られている。

「さっき食べたオードブルも、すっごく美味しかったよ」
「ふふふ」

 高校時代から変わらぬ食いしん坊な小敏に、煜瑾は懐かしくてニコニコする。

 小敏の言う通り、新しく美しい劇場のロビーでは、厳選された招待客が飲み物と軽食を供されていた。いずれも劇場のオープニングパーティーに相応しく着飾った、見事に名の知られた人物ばかりだ。

「今日も煜瑾の服装は素敵だね~」

 いつもセンスの良い煜瑾の服装を、小敏はべた褒めする。
 今日の煜瑾は、フランスのハイブランドの、ピンクベージュのスリーピースのスーツ姿だった。こういう優しい色は、煜瑾にはよく似合う。白いドレスシャツは大人しい煜瑾らしくて、グリーンのネクタイは小さなピンクのドット柄で…。

「え?コレ、ドットじゃないんだ」

 小敏が煜瑾の控えめなオシャレに気付いて思わず声を上げた。それを恥ずかしそうにして、煜瑾は笑っている。

「わ~、カワイイね~」

 それは、鮮やかなフォレストグリーンのネクタイに、ピンクのドットが飛んでいるように見えるのだが、そのドットは水玉ではなく、小さなウサギのデザインだった。

「今日は…、イースターなので…」

 照れ隠しなのか、俯いて小さな声で言った煜瑾に、小敏はハッとして文維の方を見た。

「うわ~いいね~。文維はイースターエッグなんだ」

 小敏の言う通り、煜瑾の優しいイメージとは対照的に、文維はクールで上品なミディアムグレイのお気に入りのブランドのスーツに、明るいブルーのシャツ、そこにパステルイエローのネクタイを締めている。そのネクタイの真ん中に3個の彩色されたイースターエッグが、バランスよく並んでいる。それは丁寧な刺繍の逸品で、適度な遊び心の中にも品位を感じさせた。

「さりげなく、イースターで揃えてるんだね。さすが、仲良しカップルは違うね」

 小敏の賞賛に、文維と煜瑾は顔を見合わせて、満足そうに微笑み合った。

「そういう小敏も、小敏らしくてステキです」
「煜瑾に言われたら照れちゃうな」

 カラカラと呑気そうに笑う小敏は、2人とは全くテイストが違っていた。イタリアンモードのバイオレットのジャケット。その下には光沢のある黒のシルクのカットソー。ボトムもタイトなブラックデニムに黒の編み上げブーツという、男っぽさの中にもどこか洗練されたオシャレな服装である。

「いいブーツだね」

 文維も小敏の靴に興味を持つほど、趣味が良かった。

「あ、これね。日本で買ったんだ。日本のブランドで、上海では買えないよ」

 その時、劇場が入っているホテルから派遣されたらしいウェイターが、軽食のフィンガーサンドを運んで来た。目敏くそれを見つけた小敏は、急いでそれを取りに走った。

「相変わらずだな、小敏は」

 呆れたように言う文維に、天使の心の煜瑾は、変わらない小敏こそが彼の魅力だとフッと微笑んだ。






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