第2章 事件勃発
熱に浮かされながら、ベッドの中でうつらうつらしていた煜瑾だったが、なんだかとても優しくて温かい香りに、呼ばれるようにして目を覚ました。
「文維?」
人の気配に、しばらくベッドの上でボンヤリしていた煜瑾だったが、寝室のドアが開いて振り返ると、たちまち笑顔になった。
「おかあさま!」
煜瑾の弾むような声に、恭安楽も明るく微笑み返す。
「まあ、ごめんなさいね、煜瑾ちゃん。起こしてしまったようね」
煜瑾を気遣う恭安楽に、煜瑾は静かに身を起こしながら、ゆっくりと首を横に振った。
「お腹が空いたので、ちょうど起きようと思ったところです」
率直な煜瑾に、おかあさまは優しく微笑んでくださる。
「なら良かったわ。文維の作った鶏のお粥を温めたのよ。滋養があるから召し上がれ」
ニコニコしながらお粥の入った土鍋を乗せたトレイを持って、おかあさまは煜瑾のベッドサイドに寄った。煜瑾も嬉しそうに笑顔で迎える。
「おかあさまが、わざわざお粥を温めに来て下さったのですか?」
「文維に頼まれて、あの子のクリニックによって、合鍵を預かって来たの。勝手に入ってごめんなさいね」
恭安楽がそう言うと、煜瑾は慌てて勢いよく首を横に振った。
「そんな!おかあさまにも合鍵をお渡ししておくべきなのに、私こそ気付かずに申し訳ありません」
ソワソワして頭を下げる煜瑾の肩に手を掛けて、恭安楽は顔を上げさせ、柔らかく頷いた。
「さあ、文維の鶏粥はおとうさま直伝よ。絶対美味しいはずだから、食べてみて!」
そう言って、恭安楽はベッドの端に腰を下ろし、土鍋から碗に鶏粥を入れ、レンゲスプーンでゆっくりとかきまぜた。
それを、穏やかな表情で煜瑾は見守っていた。
恭安楽はもう一度煜瑾に微笑んで、優しくフーフーと鶏粥を冷ました。
「はい、どうぞ」
恭安楽が運んだスプーンを、煜瑾もフーフーと気をつけて口に運んだ。
「どう?」
とても柔らかな笑顔で、お母さまは煜瑾の顔を覗き込むように言った。
「とっても美味しいです!」
パッと輝くような晴れやかな表情で煜瑾がハッキリと言うと、お母さまは嬉しそうに頷いた。
「まあ、良かったこと。それから、文維のクリニックで軽めの解熱剤も預かって来たのよ。お粥を食べて、暖まったら、お薬を飲んで、もう少し寝ましょうね」
「はい、おかあさま」
素直な煜瑾を慈しむように、お母さまはお粥を何度もフーフーと冷ましながら、煜瑾の口へと運んだ。
その時だった。この部屋の玄関のチャイムが鳴った。
この高級レジデンスには建物の入口に受付があり、コンシェルジュが常勤していて、セキュリティがこの上なくしっかりしている。住人を訊ねてきた者は、コンシェルジュに申し出て、コンシェルジュから住人に連絡が入ることになっている。
例外として、住人から合鍵とパスコードを預かった者は、コンシェルジュの確認を受けて、直接住人の部屋のドアまで来ることが出来るようになっていた。
文維から合鍵と暗証番号を預かった恭安楽はともかく、他に直接玄関前まで誰が来たのか煜瑾には心当たりが無かった。もちろん、文維が帰って来るにはまだ早い時間だ。
「?」
不思議そうな煜瑾に、恭安楽はクスクスと笑った。
「きっと小敏が、アイスクリームを買って来てくれたのよ。階下の受付にも言っておいたから、通してくれたのね」
コンシェルジュを通さないと煜瑾たちの部屋のドアの前までは来られないはずだが、恭安楽から言伝もあり、また小敏がよくここへ来ることからコンシェルジュと顔見知りだということもあったのだろう、するりとここまでたどり着いたらしい。
煜瑾に待っているように言って、お母さまは玄関へと向かった。すぐに解錠し、小敏を迎え入れた。
「お待たせ~。煜瑾、熱があるんだって?」
しばらくして、煜瑾が待つ寝室に、明るく元気な羽小敏が現れた。
高校時代から、この太陽のようなキラキラした、人好きのする無邪気な親友の笑顔が大好きな煜瑾だった。
「こんにちは、小敏。心配を掛けてごめんなさい」
ちょっとはにかむように言う煜瑾に、小敏は否定するように首を振り、ニッコリすると、煜瑾のいるベッドの端に座り込んだ。
「熱がある時にはね、アイスがいいよ。ヒンヤリして口当たりがいいしね」
小敏がそう言ってウキウキしながら自分が買って来たアイスを、エコバッグから取り出すと、煜瑾も気持ちが浮き上がる気がした。
「煜瑾の好きなストロベリーアイスでしょ?叔母さまの好きなラムレーズンに、ボクの好きな抹茶…。それにね、期間限定のハニーレモンと、チェリーショコラと、マスカットミルクだよ」
「え~、期間限定は気になりますけど、イチゴも美味しいし…選ぶのが難しいですね」
小敏につられるように、煜瑾もすっかり元気そうに話が弾んだ。
「文維?」
人の気配に、しばらくベッドの上でボンヤリしていた煜瑾だったが、寝室のドアが開いて振り返ると、たちまち笑顔になった。
「おかあさま!」
煜瑾の弾むような声に、恭安楽も明るく微笑み返す。
「まあ、ごめんなさいね、煜瑾ちゃん。起こしてしまったようね」
煜瑾を気遣う恭安楽に、煜瑾は静かに身を起こしながら、ゆっくりと首を横に振った。
「お腹が空いたので、ちょうど起きようと思ったところです」
率直な煜瑾に、おかあさまは優しく微笑んでくださる。
「なら良かったわ。文維の作った鶏のお粥を温めたのよ。滋養があるから召し上がれ」
ニコニコしながらお粥の入った土鍋を乗せたトレイを持って、おかあさまは煜瑾のベッドサイドに寄った。煜瑾も嬉しそうに笑顔で迎える。
「おかあさまが、わざわざお粥を温めに来て下さったのですか?」
「文維に頼まれて、あの子のクリニックによって、合鍵を預かって来たの。勝手に入ってごめんなさいね」
恭安楽がそう言うと、煜瑾は慌てて勢いよく首を横に振った。
「そんな!おかあさまにも合鍵をお渡ししておくべきなのに、私こそ気付かずに申し訳ありません」
ソワソワして頭を下げる煜瑾の肩に手を掛けて、恭安楽は顔を上げさせ、柔らかく頷いた。
「さあ、文維の鶏粥はおとうさま直伝よ。絶対美味しいはずだから、食べてみて!」
そう言って、恭安楽はベッドの端に腰を下ろし、土鍋から碗に鶏粥を入れ、レンゲスプーンでゆっくりとかきまぜた。
それを、穏やかな表情で煜瑾は見守っていた。
恭安楽はもう一度煜瑾に微笑んで、優しくフーフーと鶏粥を冷ました。
「はい、どうぞ」
恭安楽が運んだスプーンを、煜瑾もフーフーと気をつけて口に運んだ。
「どう?」
とても柔らかな笑顔で、お母さまは煜瑾の顔を覗き込むように言った。
「とっても美味しいです!」
パッと輝くような晴れやかな表情で煜瑾がハッキリと言うと、お母さまは嬉しそうに頷いた。
「まあ、良かったこと。それから、文維のクリニックで軽めの解熱剤も預かって来たのよ。お粥を食べて、暖まったら、お薬を飲んで、もう少し寝ましょうね」
「はい、おかあさま」
素直な煜瑾を慈しむように、お母さまはお粥を何度もフーフーと冷ましながら、煜瑾の口へと運んだ。
その時だった。この部屋の玄関のチャイムが鳴った。
この高級レジデンスには建物の入口に受付があり、コンシェルジュが常勤していて、セキュリティがこの上なくしっかりしている。住人を訊ねてきた者は、コンシェルジュに申し出て、コンシェルジュから住人に連絡が入ることになっている。
例外として、住人から合鍵とパスコードを預かった者は、コンシェルジュの確認を受けて、直接住人の部屋のドアまで来ることが出来るようになっていた。
文維から合鍵と暗証番号を預かった恭安楽はともかく、他に直接玄関前まで誰が来たのか煜瑾には心当たりが無かった。もちろん、文維が帰って来るにはまだ早い時間だ。
「?」
不思議そうな煜瑾に、恭安楽はクスクスと笑った。
「きっと小敏が、アイスクリームを買って来てくれたのよ。階下の受付にも言っておいたから、通してくれたのね」
コンシェルジュを通さないと煜瑾たちの部屋のドアの前までは来られないはずだが、恭安楽から言伝もあり、また小敏がよくここへ来ることからコンシェルジュと顔見知りだということもあったのだろう、するりとここまでたどり着いたらしい。
煜瑾に待っているように言って、お母さまは玄関へと向かった。すぐに解錠し、小敏を迎え入れた。
「お待たせ~。煜瑾、熱があるんだって?」
しばらくして、煜瑾が待つ寝室に、明るく元気な羽小敏が現れた。
高校時代から、この太陽のようなキラキラした、人好きのする無邪気な親友の笑顔が大好きな煜瑾だった。
「こんにちは、小敏。心配を掛けてごめんなさい」
ちょっとはにかむように言う煜瑾に、小敏は否定するように首を振り、ニッコリすると、煜瑾のいるベッドの端に座り込んだ。
「熱がある時にはね、アイスがいいよ。ヒンヤリして口当たりがいいしね」
小敏がそう言ってウキウキしながら自分が買って来たアイスを、エコバッグから取り出すと、煜瑾も気持ちが浮き上がる気がした。
「煜瑾の好きなストロベリーアイスでしょ?叔母さまの好きなラムレーズンに、ボクの好きな抹茶…。それにね、期間限定のハニーレモンと、チェリーショコラと、マスカットミルクだよ」
「え~、期間限定は気になりますけど、イチゴも美味しいし…選ぶのが難しいですね」
小敏につられるように、煜瑾もすっかり元気そうに話が弾んだ。
