第2章 事件勃発
顧警部の問いかけに、方萌巡査は持ち前の明るさ全開で答えた。
「はいっ!警部の上海訛りが強くて、彼には理解できないんです!通訳は私がします!」
相変らず屈託なく答える方萌巡査に、失礼だとイラっとした顧警部だったが、さすがにそこは年の功でグッと堪えた。
「そりゃ、すんませんな」
憧れの警部の機嫌を損ねたとは少しも思わず、これでまた警部の役に立てるとウキウキしている方萌だった。
そんな彼女をよそに、顧警部は胡双に確かめたいことが、まだいくつかあった。
「まずは、被害者のことですけど。今回の仕事とは別に、この上海で誰かに会うとか、知り合いがいるとか、そんな話は聞いてませんか?」
自分の言葉にケチをつけられた顧平警部は、多少なりともプライドを傷つけられたのか、なんとか普通話に近付けようと努力はしているようだ。
だが、隣で方萌巡査が素早く、的確に目の前の3人に英語で伝える。
「ヴィヴィは、モデル出身で派手なタイプでしたが、人懐っこいところがあって、5年前にこのチームに加わった時から、プライベートのことでも、割と何でも話してくれました。ですが、今回の上海公演については、初めての場所で楽しみにしている、と…」
慎重に、言葉を選ぶように話す胡双の礼儀正しさに、顧警部は好感を持った。キチンとした教育を受けたのだろうと思う。そこには家庭教育も含まれている。
「そっちのお2人は、何か聞いてはりますか?」
急いで方萌がベネットに英語で確認するが、すでに胡双が答えた通りだと答える。
「そちらの…、ジョニー・レイさんは?特に被害者とは親しかったの?」
ジョニーが聞き取りやすいように、方萌巡査は正確な普通話で、しかもゆっくりと丁寧に発音した。
「ヴィヴィは…、ヴィヴィは、…」
若いジョニーは、声を詰まらせ、そのまま泣き出してしまった。
「ジョニーにとって、ヴィヴィは、友人であり、姉であり、母のような存在だったと思います」
悲痛な表情で胡双はそう言って、ジョニーの肩を抱いた。
「この子はまだ18歳で、家族が恋しい年頃です。ヴィヴィを『家族』として大切に思っていたのです」
冷静な胡双の分析に、顧警部はちょっと腑に落ちない顔をした。
「家族…ねえ」
ポリポリと、頭をかく顧警部を、方萌は不思議そうに見つめた。
「では、胡双さんを中心に、そっちのベネットさん、このジョニーくん、そして被害者は『家族』だった、と」
念を押すように言って、ほんの一瞬だけ顧警部の眼差しが鋭くなった。
「はい。私はまだマジックの勉強をしている学生の頃に、このハワードに見出されました。彼が私の才能を信じて、マネージメントをしてくれたことで、私はここまで来ることが出来ました。ハワードは、私のマジシャンとしての父です」
泣きじゃくり、もう通訳が出来なくなったジョニーの代わりに、方萌が慌てて通訳をすると、ベネットはその通りだと何度も頷き、胡双と笑顔を交わした。
「なるほど。ほんなら、胡双さんと被害者は、ジョニー君の兄と姉ですか…。それとも…」
顧警部は、意味深長な間合いを取った。
「父親と母親ということですか?」
「え?」
この問いに、胡双も表情を変えた。
「それは…、私とヴィヴィが、男女の関係だったのか、というご質問ですか?」
真剣な目をして、胡双は正面の顧警部の顔をジッと見据えた。そんな睨みに、びくともしない顧警部は何事もなかったかのように眼をしょぼしょぼさせていた。
「…私と、ヴィヴィの間に、お考えのようなことはありません。私は、ヴィヴィは魅力的なビジネスパートナーとしか…」
「ヴィヴィは違う!」
急にジョニーが泣き濡れた顔を上げ、大きな声で言った。
「ヴィヴィは…、ヴィヴィは…」
ポロポロと大粒の涙をこぼすジョニーは、実年齢よりも幼く見えて、顧警部は少し哀れに思ったが、それを顔に出すことも無く、黙っていた。
「ヴィヴィは…、胡双のことが好きだった!いつか、胡双と結婚するって…!」
それだけ言ってまた泣き出したジョニーに、驚いた方萌もベネットへの通訳を忘れた。ベネットは、ジョニーが何を口にして、なぜ再び泣き出したのかを知りたがった。
急かされて、方萌も翻訳するが、それを聞いたベネットは目を見開いた!
大きな声でわめき散らすように方萌巡査に訴えかけ、次にジョニーに向かって叱りつけた。
「ええっと、ヴィヴィと胡双はそんな関係じゃない、余計なことは言うなと…ベネットさんは言っています」
「そうやろな~」
分かり切っていたかのように顧警部はサラッと呟き、それにまた方萌巡査が目を見開く。
「で、言い寄る被害者が邪魔で殺したんか?それとも、他の男と一緒になると言われて悔しくて殺したんか?」
「はいっ!警部の上海訛りが強くて、彼には理解できないんです!通訳は私がします!」
相変らず屈託なく答える方萌巡査に、失礼だとイラっとした顧警部だったが、さすがにそこは年の功でグッと堪えた。
「そりゃ、すんませんな」
憧れの警部の機嫌を損ねたとは少しも思わず、これでまた警部の役に立てるとウキウキしている方萌だった。
そんな彼女をよそに、顧警部は胡双に確かめたいことが、まだいくつかあった。
「まずは、被害者のことですけど。今回の仕事とは別に、この上海で誰かに会うとか、知り合いがいるとか、そんな話は聞いてませんか?」
自分の言葉にケチをつけられた顧平警部は、多少なりともプライドを傷つけられたのか、なんとか普通話に近付けようと努力はしているようだ。
だが、隣で方萌巡査が素早く、的確に目の前の3人に英語で伝える。
「ヴィヴィは、モデル出身で派手なタイプでしたが、人懐っこいところがあって、5年前にこのチームに加わった時から、プライベートのことでも、割と何でも話してくれました。ですが、今回の上海公演については、初めての場所で楽しみにしている、と…」
慎重に、言葉を選ぶように話す胡双の礼儀正しさに、顧警部は好感を持った。キチンとした教育を受けたのだろうと思う。そこには家庭教育も含まれている。
「そっちのお2人は、何か聞いてはりますか?」
急いで方萌がベネットに英語で確認するが、すでに胡双が答えた通りだと答える。
「そちらの…、ジョニー・レイさんは?特に被害者とは親しかったの?」
ジョニーが聞き取りやすいように、方萌巡査は正確な普通話で、しかもゆっくりと丁寧に発音した。
「ヴィヴィは…、ヴィヴィは、…」
若いジョニーは、声を詰まらせ、そのまま泣き出してしまった。
「ジョニーにとって、ヴィヴィは、友人であり、姉であり、母のような存在だったと思います」
悲痛な表情で胡双はそう言って、ジョニーの肩を抱いた。
「この子はまだ18歳で、家族が恋しい年頃です。ヴィヴィを『家族』として大切に思っていたのです」
冷静な胡双の分析に、顧警部はちょっと腑に落ちない顔をした。
「家族…ねえ」
ポリポリと、頭をかく顧警部を、方萌は不思議そうに見つめた。
「では、胡双さんを中心に、そっちのベネットさん、このジョニーくん、そして被害者は『家族』だった、と」
念を押すように言って、ほんの一瞬だけ顧警部の眼差しが鋭くなった。
「はい。私はまだマジックの勉強をしている学生の頃に、このハワードに見出されました。彼が私の才能を信じて、マネージメントをしてくれたことで、私はここまで来ることが出来ました。ハワードは、私のマジシャンとしての父です」
泣きじゃくり、もう通訳が出来なくなったジョニーの代わりに、方萌が慌てて通訳をすると、ベネットはその通りだと何度も頷き、胡双と笑顔を交わした。
「なるほど。ほんなら、胡双さんと被害者は、ジョニー君の兄と姉ですか…。それとも…」
顧警部は、意味深長な間合いを取った。
「父親と母親ということですか?」
「え?」
この問いに、胡双も表情を変えた。
「それは…、私とヴィヴィが、男女の関係だったのか、というご質問ですか?」
真剣な目をして、胡双は正面の顧警部の顔をジッと見据えた。そんな睨みに、びくともしない顧警部は何事もなかったかのように眼をしょぼしょぼさせていた。
「…私と、ヴィヴィの間に、お考えのようなことはありません。私は、ヴィヴィは魅力的なビジネスパートナーとしか…」
「ヴィヴィは違う!」
急にジョニーが泣き濡れた顔を上げ、大きな声で言った。
「ヴィヴィは…、ヴィヴィは…」
ポロポロと大粒の涙をこぼすジョニーは、実年齢よりも幼く見えて、顧警部は少し哀れに思ったが、それを顔に出すことも無く、黙っていた。
「ヴィヴィは…、胡双のことが好きだった!いつか、胡双と結婚するって…!」
それだけ言ってまた泣き出したジョニーに、驚いた方萌もベネットへの通訳を忘れた。ベネットは、ジョニーが何を口にして、なぜ再び泣き出したのかを知りたがった。
急かされて、方萌も翻訳するが、それを聞いたベネットは目を見開いた!
大きな声でわめき散らすように方萌巡査に訴えかけ、次にジョニーに向かって叱りつけた。
「ええっと、ヴィヴィと胡双はそんな関係じゃない、余計なことは言うなと…ベネットさんは言っています」
「そうやろな~」
分かり切っていたかのように顧警部はサラッと呟き、それにまた方萌巡査が目を見開く。
「で、言い寄る被害者が邪魔で殺したんか?それとも、他の男と一緒になると言われて悔しくて殺したんか?」
