第1章 華麗なるマジックショー
鮮やかなDr.Hooの手際に、観客たちは惜しみない賞賛の拍手を送った。
もちろん、その中には煜瑾もいて、興奮状態で頬を染めながら、キラキラした瞳で熱心に手を叩いていた。
その様子を2階の桟敷席から見守っているのは、実兄の唐煜瓔だった。
「煜瓔お兄さま。煜瑾は、ご心配に及びませんよ」
弟を溺愛する、心配そうな兄の様子を気遣って、小敏が声を掛けた。
「煜瑾は幸せですね。文維に愛された上に、これほどにお兄さまに愛されているんですから」
小敏の言葉に、唐煜瓔もほんの少しだけ口元を綻ばせ、小さく頷いた。
ステージ上では、絶賛を浴びるDr.Hooが、鄭夫妻、包夫妻と順番に握手をして協力への感謝を述べた。
続いて感謝を述べるはずの趙局長の手を握ると、Dr.Hooはその手を離さず、観客に向かって声を上げた。
「さて、次のチャレンジには、こちらの趙局長お1人にご協力をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」
思わぬ申し出に、趙局長は剽軽な仕草で驚きを表し、次に鷹揚に頷いて承諾を示した。
「ありがとうございます。では金瑶夫人は、鄭ご夫妻、包ご夫妻と共に、お席の方へお戻りください」
Dr.Hooの言葉に、艶やかな真紅のチャイナドレスのアシスタントのヴィヴィが、5人の特別ゲストをそれぞれの席へと誘導した。
舞台上には、スラリとスタイリッシュでスマートなDr.Hooと、意気揚々と愛嬌を振りまく、背の低い小太りのお役人が並んだ。
ステージを去る5人には惜しみない拍手が送られ、夫人たちは楽しそうに笑顔を交わしたり、手を振ったりしていた。
「おかあさま!」
溌溂とした笑顔で手を振られて、煜瑾は嬉しくて思わず声を上げて手を振り返した。
その声に、仲良く手を繋いでいた包教授と恭安楽が同時に振り返り、さらに満面の笑顔で、分かっているというように、何度も大きく頷いた。
ステージに近い金瑶が席に着き、
その後方のテーブル席に包夫妻、そして、そこから数卓はなれた同じテーブル席に鄭夫妻は戻った。
興奮冷めやらぬ様子の恭安楽は、ハッと思い出したように2階の桟敷席を見上げた。するとそこには、色白で童顔の愛らしい甥が、身を乗り出すようにして手を振っていた。
「小敏も、楽しそう」
「君も、ね」
浮かれている愛妻に、包教授も嬉しそうに彼女の耳元に囁いた。2人はどこまでも睦まじく、顔を見合わせ微笑み合った。
「さあ、次は趙局長お1人にご協力を願いまして、人の心の複雑さを皆様に知っていただきましょう!」
意味ありげに笑い、Dr.Hooは両手を拡げ、次に右手を胸に当てて深く頭を下げた。
「さて、これから趙局長に催眠術をお掛けします」
「なんと!」
本気で驚いた様子の趙徳輝だったが、すぐに大らかなところを見せて、豪快に笑った。
「この私が催眠術に?本当にかかると思いますか?」
面白がっているように見える趙局長だが、瞳の奥には挑戦的な光が見える。自分のようなエリートが、催眠術などで恥をかかされてはたまらないと思っているのだろう。
Dr.Hooはそれには答えず、品良く笑って観客に向かって言った。
「これから催眠術をかけますが、これは企業秘密。どなたかに真似をされては、私の商売が上がったりですからね。なので、しばらくお時間をいただきます」
観客たちは、ユーモアたっぷりのDr.Hooの言葉にクスクスと笑っていた。
「その間、皆さまにはご休憩をお取りいただきます。15分間、私と趙局長はあちらのカーテンの向こうに消えますが、姑息な打ち合わせなどいたしませんので、ご安心ください」
そう言うと、舞台の奥から、先ほどDr.Hooが隠れていた、四君子の壁を持つ箱よりも一回り以上大きな箱が運ばれてきた。今度の箱は壁ではなく、赤いベルベットのカーテンが下げられている。
「では、15分後に…。趙局長、ご面倒ですが、あちらの箱の中へお願いできますか?」
丁重なDr.Hooからの申し出に、趙局長は悠然として頷き、先導されながら箱の中へと消えた。
「あの箱の中で催眠術が?」
ドキドキする胸を押さえて、煜瑾は文維に訊いた。
「そうですよ。下手に催眠術をかける方法を公開して、誰かが間違った方法で悪用したら困りますからね」
「小敏が催眠術の方法を覚えたら、きっと私にかけようとしますよ」
煜瑾は、いたずら好きの親友を思って、笑いが止まらないようだ。
「いつだって、悪いことばっかり考えてるんだから…」
「誰が、悪いことばっかり考えてるって?」
「わあ!」
15分の休憩時間を使って、小敏が2階の桟敷席から1階前方の招待席に駆け付けたことに気付かなかった煜瑾は、いきなり声を掛けられてビックリした。
「どう?楽しんでる?」
もちろん、その中には煜瑾もいて、興奮状態で頬を染めながら、キラキラした瞳で熱心に手を叩いていた。
その様子を2階の桟敷席から見守っているのは、実兄の唐煜瓔だった。
「煜瓔お兄さま。煜瑾は、ご心配に及びませんよ」
弟を溺愛する、心配そうな兄の様子を気遣って、小敏が声を掛けた。
「煜瑾は幸せですね。文維に愛された上に、これほどにお兄さまに愛されているんですから」
小敏の言葉に、唐煜瓔もほんの少しだけ口元を綻ばせ、小さく頷いた。
ステージ上では、絶賛を浴びるDr.Hooが、鄭夫妻、包夫妻と順番に握手をして協力への感謝を述べた。
続いて感謝を述べるはずの趙局長の手を握ると、Dr.Hooはその手を離さず、観客に向かって声を上げた。
「さて、次のチャレンジには、こちらの趙局長お1人にご協力をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」
思わぬ申し出に、趙局長は剽軽な仕草で驚きを表し、次に鷹揚に頷いて承諾を示した。
「ありがとうございます。では金瑶夫人は、鄭ご夫妻、包ご夫妻と共に、お席の方へお戻りください」
Dr.Hooの言葉に、艶やかな真紅のチャイナドレスのアシスタントのヴィヴィが、5人の特別ゲストをそれぞれの席へと誘導した。
舞台上には、スラリとスタイリッシュでスマートなDr.Hooと、意気揚々と愛嬌を振りまく、背の低い小太りのお役人が並んだ。
ステージを去る5人には惜しみない拍手が送られ、夫人たちは楽しそうに笑顔を交わしたり、手を振ったりしていた。
「おかあさま!」
溌溂とした笑顔で手を振られて、煜瑾は嬉しくて思わず声を上げて手を振り返した。
その声に、仲良く手を繋いでいた包教授と恭安楽が同時に振り返り、さらに満面の笑顔で、分かっているというように、何度も大きく頷いた。
ステージに近い金瑶が席に着き、
その後方のテーブル席に包夫妻、そして、そこから数卓はなれた同じテーブル席に鄭夫妻は戻った。
興奮冷めやらぬ様子の恭安楽は、ハッと思い出したように2階の桟敷席を見上げた。するとそこには、色白で童顔の愛らしい甥が、身を乗り出すようにして手を振っていた。
「小敏も、楽しそう」
「君も、ね」
浮かれている愛妻に、包教授も嬉しそうに彼女の耳元に囁いた。2人はどこまでも睦まじく、顔を見合わせ微笑み合った。
「さあ、次は趙局長お1人にご協力を願いまして、人の心の複雑さを皆様に知っていただきましょう!」
意味ありげに笑い、Dr.Hooは両手を拡げ、次に右手を胸に当てて深く頭を下げた。
「さて、これから趙局長に催眠術をお掛けします」
「なんと!」
本気で驚いた様子の趙徳輝だったが、すぐに大らかなところを見せて、豪快に笑った。
「この私が催眠術に?本当にかかると思いますか?」
面白がっているように見える趙局長だが、瞳の奥には挑戦的な光が見える。自分のようなエリートが、催眠術などで恥をかかされてはたまらないと思っているのだろう。
Dr.Hooはそれには答えず、品良く笑って観客に向かって言った。
「これから催眠術をかけますが、これは企業秘密。どなたかに真似をされては、私の商売が上がったりですからね。なので、しばらくお時間をいただきます」
観客たちは、ユーモアたっぷりのDr.Hooの言葉にクスクスと笑っていた。
「その間、皆さまにはご休憩をお取りいただきます。15分間、私と趙局長はあちらのカーテンの向こうに消えますが、姑息な打ち合わせなどいたしませんので、ご安心ください」
そう言うと、舞台の奥から、先ほどDr.Hooが隠れていた、四君子の壁を持つ箱よりも一回り以上大きな箱が運ばれてきた。今度の箱は壁ではなく、赤いベルベットのカーテンが下げられている。
「では、15分後に…。趙局長、ご面倒ですが、あちらの箱の中へお願いできますか?」
丁重なDr.Hooからの申し出に、趙局長は悠然として頷き、先導されながら箱の中へと消えた。
「あの箱の中で催眠術が?」
ドキドキする胸を押さえて、煜瑾は文維に訊いた。
「そうですよ。下手に催眠術をかける方法を公開して、誰かが間違った方法で悪用したら困りますからね」
「小敏が催眠術の方法を覚えたら、きっと私にかけようとしますよ」
煜瑾は、いたずら好きの親友を思って、笑いが止まらないようだ。
「いつだって、悪いことばっかり考えてるんだから…」
「誰が、悪いことばっかり考えてるって?」
「わあ!」
15分の休憩時間を使って、小敏が2階の桟敷席から1階前方の招待席に駆け付けたことに気付かなかった煜瑾は、いきなり声を掛けられてビックリした。
「どう?楽しんでる?」
