第1章 華麗なるマジックショー
「こんばんは、恭安楽さま」
姚夫人の時と同じく、Dr.Hooは恭安楽にも手を差し出した。
「今夜はありがとう、Dr.Hoo」
「ようこそ。ショーは楽しんでいただいていますか?」
「もちろんよ!家族みんなで楽しませていただいていますわ」
にこやかな包教授夫人に、Dr.Hooも笑顔で返す。
「まだまだショーは続きますよ。最後まで楽しんで下さい」
澄んだ恭安楽の瞳の中に、Dr.Hooは求めるものを見つけたように、ゆっくりと頷いて、隣の趙局長夫人の前へと移動した。
「こんばんは、Dr.Hoo。今夜は本当に素晴らしい夜ですわ!」
口火を切ったのは、金瑶の方だった。元国民的歌手の存在感は今でも大きい。
私は他の2人の奥様方とは違うとでも言いたげに、彼女は前に出て、自分からDr.Hooに握手を求めた。
「ありがとうございます、趙局長の奥様」
Dr.Hooは嫣然と微笑む金瑶に惑わされた様子も無く、淡々と観察をしていた。
「よろしいですか、金瑶夫人。今から私が言う言葉に、よく耳を傾けて下さい」
「まあ、なんだか怖いわね」
茶目っ気を見せて、金瑶は大げさに肩を竦めて観客たちにアピールした。舞台慣れした彼女から「仕掛け」を始めるのは賢いやり方だった。
「いいですか、よく聞いて…。『ルビーは、愛情』、『サファイアは、慈愛』、『エメラルドは幸運』…」
ゆっくりと丁寧に語り掛けるDr.Hooに、自分が選んだ宝石がバレないように金瑶は澄ましている。それさえも面白そうにDr.Hooは頷いた。
「では、もう一度、並んでいただけますか?」
それを聞いた3人の夫人は、互いの様子を伺いながら天才マジシャンの前に並び直した。
「もう一度、私の言葉をよく聞いてください」
繰り返される指示に、夫人たちだけでなく観客の緊張も高まる。
「『ルビーは、愛情』、『サファイアは、慈愛』、『エメラルドは幸運』。いいですか、よく聞いて…。『愛情』…、『慈愛』…、『幸運』…」
それが自分たちの宝石を当てるヒントになる、と分かっている女性たちは、知られまいとして素知らぬ表情を繕っている。
「…なるほど。分かりました」
勝ち誇ったようなDr.Hooの表情に、ステージの上だけでなく会場全体が息を飲んだ。
「あれだけで、分かっちゃうんだ…」
2階の桟敷席から見ていた小敏も、感心したように呟いた。
「では引き続き、ケースの方を見ていきましょう」
Dr.Hooは、そう言って紳士方を並ばせて、前に立った。
鄭頭取は、居心地が悪そうに、遠くを見たり、視線を落として自分の足元を見たりしている。
包教授は悠然たるもので、穏やかな顔つきでDr.Hooを眺めながら、事の成り行きを見守っているようだ。
趙局長もまた、泰然とした態度を取っているが、視線はゆっくりと会場を見回し、客席にいる誰が自分に敬意を払っているかを見定めているように見えた。
それら、三者三様の態度に、天才マジシャンはどこか皮肉っぽくニヤリと笑った。
「鄭頭取、今夜はお越しいただきありがとうございます」
夫人たちの時と同じように、Dr.Hooは手を差し出し、握手を求めた。
「どうも。見事なショーですね」
こうやって見世物にされるのが気に入らないのか、頭取は言葉少なく、表情も硬い。
「ありがとうございます、鄭頭取」
あくまでも紳士的に、丁重に、Dr.Hooは鄭銘に頭を下げた。それを、社交辞令的に会釈で答える鄭頭取だ。
次にDr.Hooは包教授の目の前にたち、柔和な笑みで挨拶をする。
「ごきげんよう、包教授。先日は、どうも」
「またお会いできて嬉しいですよ、Dr.Hoo」
至って平和的な雰囲気の中で2人は握手を交わした。
「先日、とあるステキなお昼の番組で、教授とご一緒したのです。…ね、李麗安」
と、Dr.Hooは包教授とは再会であることを観客たちに説明し、その会場内にその時の有名女性司会者を見つけて、親密さをアピールするようにスマートに指をさして笑った。
指名されたことで、満足そうに李麗安は頷いた。恐らくは次回の番組内で、彼女はDr.Hooのこの公演を絶賛することだろう。
「ご協力いただき、ありがとうございます、包教授」
そう言ってDr.Hooは、真摯な眼差しで教授を見つめ、もう一度優しく微笑んで、次の趙局長の前へと移った。
「今宵は、この素晴らしいステージにご招待いただき、感謝しますよ、胡双さん」
「こちらこそ、お越しいただき、心より感謝いたします、趙局長。お楽しみいただいておりますか?」
180cmを超すスラリとしたDr.Hooに対し威厳を見せようとする趙局長は、敢えて天才マジシャンを彼の中国名で呼びかけた。だが、それは天才マジシャンのカリスマ性を傷つけるものではなかった。
「もちろん、妻と共に楽しい時間を体験させていただいてますよ。皆さんも、そうでしょう?」
趙局長は、会場を埋め尽くす観客たちにも同意を求めた。
姚夫人の時と同じく、Dr.Hooは恭安楽にも手を差し出した。
「今夜はありがとう、Dr.Hoo」
「ようこそ。ショーは楽しんでいただいていますか?」
「もちろんよ!家族みんなで楽しませていただいていますわ」
にこやかな包教授夫人に、Dr.Hooも笑顔で返す。
「まだまだショーは続きますよ。最後まで楽しんで下さい」
澄んだ恭安楽の瞳の中に、Dr.Hooは求めるものを見つけたように、ゆっくりと頷いて、隣の趙局長夫人の前へと移動した。
「こんばんは、Dr.Hoo。今夜は本当に素晴らしい夜ですわ!」
口火を切ったのは、金瑶の方だった。元国民的歌手の存在感は今でも大きい。
私は他の2人の奥様方とは違うとでも言いたげに、彼女は前に出て、自分からDr.Hooに握手を求めた。
「ありがとうございます、趙局長の奥様」
Dr.Hooは嫣然と微笑む金瑶に惑わされた様子も無く、淡々と観察をしていた。
「よろしいですか、金瑶夫人。今から私が言う言葉に、よく耳を傾けて下さい」
「まあ、なんだか怖いわね」
茶目っ気を見せて、金瑶は大げさに肩を竦めて観客たちにアピールした。舞台慣れした彼女から「仕掛け」を始めるのは賢いやり方だった。
「いいですか、よく聞いて…。『ルビーは、愛情』、『サファイアは、慈愛』、『エメラルドは幸運』…」
ゆっくりと丁寧に語り掛けるDr.Hooに、自分が選んだ宝石がバレないように金瑶は澄ましている。それさえも面白そうにDr.Hooは頷いた。
「では、もう一度、並んでいただけますか?」
それを聞いた3人の夫人は、互いの様子を伺いながら天才マジシャンの前に並び直した。
「もう一度、私の言葉をよく聞いてください」
繰り返される指示に、夫人たちだけでなく観客の緊張も高まる。
「『ルビーは、愛情』、『サファイアは、慈愛』、『エメラルドは幸運』。いいですか、よく聞いて…。『愛情』…、『慈愛』…、『幸運』…」
それが自分たちの宝石を当てるヒントになる、と分かっている女性たちは、知られまいとして素知らぬ表情を繕っている。
「…なるほど。分かりました」
勝ち誇ったようなDr.Hooの表情に、ステージの上だけでなく会場全体が息を飲んだ。
「あれだけで、分かっちゃうんだ…」
2階の桟敷席から見ていた小敏も、感心したように呟いた。
「では引き続き、ケースの方を見ていきましょう」
Dr.Hooは、そう言って紳士方を並ばせて、前に立った。
鄭頭取は、居心地が悪そうに、遠くを見たり、視線を落として自分の足元を見たりしている。
包教授は悠然たるもので、穏やかな顔つきでDr.Hooを眺めながら、事の成り行きを見守っているようだ。
趙局長もまた、泰然とした態度を取っているが、視線はゆっくりと会場を見回し、客席にいる誰が自分に敬意を払っているかを見定めているように見えた。
それら、三者三様の態度に、天才マジシャンはどこか皮肉っぽくニヤリと笑った。
「鄭頭取、今夜はお越しいただきありがとうございます」
夫人たちの時と同じように、Dr.Hooは手を差し出し、握手を求めた。
「どうも。見事なショーですね」
こうやって見世物にされるのが気に入らないのか、頭取は言葉少なく、表情も硬い。
「ありがとうございます、鄭頭取」
あくまでも紳士的に、丁重に、Dr.Hooは鄭銘に頭を下げた。それを、社交辞令的に会釈で答える鄭頭取だ。
次にDr.Hooは包教授の目の前にたち、柔和な笑みで挨拶をする。
「ごきげんよう、包教授。先日は、どうも」
「またお会いできて嬉しいですよ、Dr.Hoo」
至って平和的な雰囲気の中で2人は握手を交わした。
「先日、とあるステキなお昼の番組で、教授とご一緒したのです。…ね、李麗安」
と、Dr.Hooは包教授とは再会であることを観客たちに説明し、その会場内にその時の有名女性司会者を見つけて、親密さをアピールするようにスマートに指をさして笑った。
指名されたことで、満足そうに李麗安は頷いた。恐らくは次回の番組内で、彼女はDr.Hooのこの公演を絶賛することだろう。
「ご協力いただき、ありがとうございます、包教授」
そう言ってDr.Hooは、真摯な眼差しで教授を見つめ、もう一度優しく微笑んで、次の趙局長の前へと移った。
「今宵は、この素晴らしいステージにご招待いただき、感謝しますよ、胡双さん」
「こちらこそ、お越しいただき、心より感謝いたします、趙局長。お楽しみいただいておりますか?」
180cmを超すスラリとしたDr.Hooに対し威厳を見せようとする趙局長は、敢えて天才マジシャンを彼の中国名で呼びかけた。だが、それは天才マジシャンのカリスマ性を傷つけるものではなかった。
「もちろん、妻と共に楽しい時間を体験させていただいてますよ。皆さんも、そうでしょう?」
趙局長は、会場を埋め尽くす観客たちにも同意を求めた。
