第1章 華麗なるマジックショー
3人の夫人たちは顔を寄せ合い、それぞれ好みの石を選んだ。
紺色のワンピースを着た、鄭頭取夫人の姚静宜は、青いサファイアを取った。
若草色のヴィンテージ・レースのチャイナドレスを着た、包教授夫人の恭安楽は、緑のエメラルドを取った。
そして、サーモンピンクのスーツを着た、趙局長夫人の金瑶は、赤いルビーを取った。
だが、そこに趙局長が割り込み、パントマイムのように、夫人たちの服の色と石の色が近いのは良くないと観客たちにアピールした。その通りだと観客たちからは拍手が沸き上がり、ステージ上の頭取や教授も支持するように頷いた。
〈私からは皆さんの声は聞こえませんが、アドバイスを1つ差し上げます〉
突然、箱の中からDr.Hooのくぐもった声が聞こえた。確かにDr.Hooは箱の中にいるのだと誰にでも分かった。
〈宝石には、不思議なパワーがあります。それを表した《石言葉》というものがあるのです〉
Dr.Hooの声は落ち着いていて、箱の中であれこれ小細工をしている様子は無い。
〈緑のエメラルドの石言葉は、《幸運》。赤いルビーの石言葉は、《愛情》。青いサファイアの石言葉は、《慈愛》。どれも、幸せなご家庭をお持ちの奥様方に相応しい石です〉
その言葉に、無邪気に微笑んだのは恭安楽1人で、他の2人の夫人はぎこちない微笑みを浮かべるだけだった。
趙局長とDr.Hooからのアドバイスで、奥方たちはコソコソと相談し、宝石を取り換え、それぞれの手に持って、観客たちへと見せた。
その選択には、彼女たちの夫も、観客たちも納得したようだ。
〈奥様方が選んだ宝石を、今度は旦那様方が宝石箱へ〉
Dr.Hooの指示に、今度は男性陣が頭を寄せ合い、3つの入れ物を相手に検討を始める。
夫たちがそれぞれ箱を選び、その箱の中に妻が選んだ宝石を入れた。そして、それは元通りに整然と、何事も無かったかのようにワゴンの上に並べられた。
「本当に、どの石が、どの入れ物に入っているかなんて、分かるのですか?」
好奇心いっぱいに、煜瑾が文維に訊ねる。そんな純真さに文維も思わず柔らかな笑みを浮かべる。かつてはクールなモテ男をして名を知られた、あの包文維とは信じられないような慈愛に満ちた笑顔だ。
「彼は、『天才マジシャン』ですからね」
含みのある言い方で文維が言うと、煜瑾はさらにその高貴で美しい顔を輝かせた。
「楽しいですね、マジックって」
満ち足りた笑顔で煜瑾がそう言うと、文維も心から嬉しそうに頷いた。
〈全てが整いましたら、私のアシスタントに鍵を渡して下さい〉
この一言と同時に、舞台の袖に下がっていたDr.Hooの2人のアシスタントが現れる。どれも計算し尽くされた絶妙のタイミングで、観客たちの気持ちを逸らせるようなことは全くと言ってなかった。
誰しもが、どんどんDr.Hooの世界に巻き込まれ、引き込まれていく。
ステージ上の6人は、互いに顔を見合わせ、これで良いと頷くと、鍵を持った趙局長がヴィヴィに合図を送り、鍵を受け取ったヴィヴィは、箱の傍に立って待つジョニーに鍵を手渡して鍵を開けさせた。
「ありがとう、皆さん!」
若いジョニーが錠前を外すと、何もしていないのに箱の四方の壁が音も無く倒れた。
「わあ!」「おお!」「まあ!」
会場からまたも歓声が上がった。
箱の中から登場したDr.Hooの衣装は、先ほどまでのシルバーのタキシードから、純白のフロックコートとスラックスという、気品のある正装に変わっていた。
お洒落なDr.Hooに、会場全体がいやが上にも盛り上がる。
「さあ、ステージ上のステキなご夫妻たちが、巧妙に隠された宝石を、私が見つけて見せましょう」
チャーミングなDr.Hooに、今や全ての観客たちが虜になっていた。
その熱気から逃れるように、ジョニーとヴィヴィは箱を片付けていく。
「箱の中は、空っぽでしたよね。彼は、いつの間に着替えたのでしょう!」
煜瑾の興奮をよそに、ステージ上は進行していく。
「まだ、ケースには近づきません。まずは、ご婦人方がそれぞれどの石をお選びになったのか、を探っていきましょう」
非常に紳士的にそう言って、Dr.Hooは夫人たちを並ばせて、その前に立ち、意味ありげな視線で観察を始める。
「姚さん、こんばんは」
「こんばんは、Dr.Hoo。お目にかかれて光栄ですわ」
2人は笑顔で握手をした。
Dr.Hooは、その手を離そうとせず、その心を読み取ろうとするように、姚夫人の目をジッと見つめた。
ハンサムでカリスマ性のある天才マジシャンの眼差しに、姚静宜はウットリとした。その様子を冷ややかに眺める、夫の鄭頭取の表情をも、Dr.Hooは、チラリと視線の片隅で確認する。
次にDr.Hooは、恭安楽の前に立った。
紺色のワンピースを着た、鄭頭取夫人の姚静宜は、青いサファイアを取った。
若草色のヴィンテージ・レースのチャイナドレスを着た、包教授夫人の恭安楽は、緑のエメラルドを取った。
そして、サーモンピンクのスーツを着た、趙局長夫人の金瑶は、赤いルビーを取った。
だが、そこに趙局長が割り込み、パントマイムのように、夫人たちの服の色と石の色が近いのは良くないと観客たちにアピールした。その通りだと観客たちからは拍手が沸き上がり、ステージ上の頭取や教授も支持するように頷いた。
〈私からは皆さんの声は聞こえませんが、アドバイスを1つ差し上げます〉
突然、箱の中からDr.Hooのくぐもった声が聞こえた。確かにDr.Hooは箱の中にいるのだと誰にでも分かった。
〈宝石には、不思議なパワーがあります。それを表した《石言葉》というものがあるのです〉
Dr.Hooの声は落ち着いていて、箱の中であれこれ小細工をしている様子は無い。
〈緑のエメラルドの石言葉は、《幸運》。赤いルビーの石言葉は、《愛情》。青いサファイアの石言葉は、《慈愛》。どれも、幸せなご家庭をお持ちの奥様方に相応しい石です〉
その言葉に、無邪気に微笑んだのは恭安楽1人で、他の2人の夫人はぎこちない微笑みを浮かべるだけだった。
趙局長とDr.Hooからのアドバイスで、奥方たちはコソコソと相談し、宝石を取り換え、それぞれの手に持って、観客たちへと見せた。
その選択には、彼女たちの夫も、観客たちも納得したようだ。
〈奥様方が選んだ宝石を、今度は旦那様方が宝石箱へ〉
Dr.Hooの指示に、今度は男性陣が頭を寄せ合い、3つの入れ物を相手に検討を始める。
夫たちがそれぞれ箱を選び、その箱の中に妻が選んだ宝石を入れた。そして、それは元通りに整然と、何事も無かったかのようにワゴンの上に並べられた。
「本当に、どの石が、どの入れ物に入っているかなんて、分かるのですか?」
好奇心いっぱいに、煜瑾が文維に訊ねる。そんな純真さに文維も思わず柔らかな笑みを浮かべる。かつてはクールなモテ男をして名を知られた、あの包文維とは信じられないような慈愛に満ちた笑顔だ。
「彼は、『天才マジシャン』ですからね」
含みのある言い方で文維が言うと、煜瑾はさらにその高貴で美しい顔を輝かせた。
「楽しいですね、マジックって」
満ち足りた笑顔で煜瑾がそう言うと、文維も心から嬉しそうに頷いた。
〈全てが整いましたら、私のアシスタントに鍵を渡して下さい〉
この一言と同時に、舞台の袖に下がっていたDr.Hooの2人のアシスタントが現れる。どれも計算し尽くされた絶妙のタイミングで、観客たちの気持ちを逸らせるようなことは全くと言ってなかった。
誰しもが、どんどんDr.Hooの世界に巻き込まれ、引き込まれていく。
ステージ上の6人は、互いに顔を見合わせ、これで良いと頷くと、鍵を持った趙局長がヴィヴィに合図を送り、鍵を受け取ったヴィヴィは、箱の傍に立って待つジョニーに鍵を手渡して鍵を開けさせた。
「ありがとう、皆さん!」
若いジョニーが錠前を外すと、何もしていないのに箱の四方の壁が音も無く倒れた。
「わあ!」「おお!」「まあ!」
会場からまたも歓声が上がった。
箱の中から登場したDr.Hooの衣装は、先ほどまでのシルバーのタキシードから、純白のフロックコートとスラックスという、気品のある正装に変わっていた。
お洒落なDr.Hooに、会場全体がいやが上にも盛り上がる。
「さあ、ステージ上のステキなご夫妻たちが、巧妙に隠された宝石を、私が見つけて見せましょう」
チャーミングなDr.Hooに、今や全ての観客たちが虜になっていた。
その熱気から逃れるように、ジョニーとヴィヴィは箱を片付けていく。
「箱の中は、空っぽでしたよね。彼は、いつの間に着替えたのでしょう!」
煜瑾の興奮をよそに、ステージ上は進行していく。
「まだ、ケースには近づきません。まずは、ご婦人方がそれぞれどの石をお選びになったのか、を探っていきましょう」
非常に紳士的にそう言って、Dr.Hooは夫人たちを並ばせて、その前に立ち、意味ありげな視線で観察を始める。
「姚さん、こんばんは」
「こんばんは、Dr.Hoo。お目にかかれて光栄ですわ」
2人は笑顔で握手をした。
Dr.Hooは、その手を離そうとせず、その心を読み取ろうとするように、姚夫人の目をジッと見つめた。
ハンサムでカリスマ性のある天才マジシャンの眼差しに、姚静宜はウットリとした。その様子を冷ややかに眺める、夫の鄭頭取の表情をも、Dr.Hooは、チラリと視線の片隅で確認する。
次にDr.Hooは、恭安楽の前に立った。
