第1章 華麗なるマジックショー
マネージャーのベネットの紹介で演台に上がったのは、テレビで多くの人たちに顔を知られることとなった、甘いマスクで新進気鋭のマジシャン、Dr.Hooこと、胡双だった。
確かに、心理学を駆使した「サイコロジカルイリュージョン」という個性的なマジックで注目されるDr.Hooだが、その秀でたルックスでも人々の関心を引いていた。
「まあ、テレビで見たよりイケメンよね~」
恭安楽は、あっけにとられたように、そっとお気に入りの甥っ子の耳元で囁いた。
「叔母さま、そんなことを言ったら叔父さまが気を悪くするよ」
クスクスと笑いながら答えた小敏に、さすがの包教授も困ったような笑いを浮かべる。
「本日は、この素晴らしい劇場の杮落としにお招きいただきありがとうございます。みなさまのご期待にお応えすべく、全力を尽くします!」
とてもアメリカから来たカナダ国籍のマジシャンとは思えないほどの、完璧な北京語でDr.Hooは挨拶をした。それに感心したように、招待客たちは拍手を惜しまなかった。
「では…」
その時、ホテルのウェイターが乾杯用のグラスをトレイに乗せて運んで来た。
それを待っていたかのように、Dr.Hooはグラスではなく、ウェイターが腕にかけていた白いナプキンを取り上げた。
「あ!」
ウェイターが苦情を言うよりも早く、Dr.Hooはそのナプキンを大きく上下に振った。
「おお!」「わあ!「まあ!」
次の瞬間、何でもないナプキンの下から現れたのは、1輪の真紅のバラだった。
「赤いバラの花言葉は『美』」
Dr.Hooはそう言うと、つかつかと女優に近付き赤いバラを捧げるように手渡した。かつて一世を風靡した有名な女優だが、最近は人気に陰りも出てきた。そんな彼女だが、やはり美人女優のオーラは一般人とは違い、艶やかな真っ赤なバラに引けを取らない存在感だ。
「さすがですね」
真剣な表情で文維が呟いた。その意味が理解できない煜瑾が不思議そうに文維を振り返ると、隣にいた小敏までもが、小声で囁いた。
「あれ、造花じゃなくて生花だよ」
「そうなのですか?」
煜瑾はただ、真紅のバラが少し離れて立つここまでも香ってきそうなほど新鮮で美しいな、とは思ったのだが、それ以上の意味が分からない。
「マジック用の造花なら、折りたたむことが出来て、隠しやすいのだよ。けれど、生花はみだりに折れないだろう?その分、マジックに使うのは難しいんだよ」
素直な煜瑾のために、保護者を自認する唐煜瓔が、優しく説明をした。
「ああ!そうですね。文維はすぐにそれに気付いたのですね」
兄の説明よりも、文維の聡明さに煜瑾はときめいていた。
「あ、もう1輪出すよ」
小敏の言葉の通りに、Dr.Hooはもう一度大きく真っ白なナプキンを振った。
「わ~、珍しい色だね~」
今度は、思わず小敏が声をあげるほど、鮮やかなオレンジ色の大輪のバラが現れる。
「本当に、美しいバラですね~」
「私は煜瑾ちゃんに貰ったピンクのバラが好きだわ」
確かに少し主張が強いオレンジ色のバラは、可愛い物好きの恭安楽の好みでは無さそうだ。
「オレンジのバラの花言葉は『勇気』」
そう言ってDr.Hooが1輪のオレンジ色のバラを差し出した相手は、最近話題の不動産会社の女性CEOで、男性中心の業界で、頭角を現す「出来る女」としてマスコミにもよく取り上げられている。たしかに、自信たっぷりの堂々とした彼女には似つかわしい花だった。
「すごいわね。ちゃんと誰にどの花を渡すか、事前に調べてあるのね」
恭安楽が感心したように言うと、煜瑾もなるほどと目を丸くしていた。
「最後のバラです」
Dr.Hooの言葉に、人々が注目する。もはやネタを暴こうとする意地悪な視線は無く、その場にいた観客たちの目は称賛しかなかった。
そんな視線を一斉に浴びながら、Dr.Hooは、華麗に白いナプキンをこれまでで一番高く振り上げた。思わず観客たちの視線はその白い物を追う。それがひらひらと目の高さに舞い降りると、Dr.Hooは優雅にナプキンを掴み、次の瞬間にはその中から真っ白なバラの花束を手にしていた。
「え~!あんな花束をどこから~?」「どうして~?」
観客の中から似たような声が上がる。そして一瞬の後に大きな歓声が上がった。
「白いバラの花言葉は『清純』」
そう言って、甘いマスクのDr.Hooは、市政府高官の家族に近付き、可愛らしい水色のワンピースを着た、中学生くらいの高官の愛娘に手渡した。
「無難な相手を選んだよね」
皮肉屋の小敏が、ニコニコしながらも小さな声でそう言った。
「え?素晴らしいですよね、生花で花束までなんて!」
純粋無垢な煜瑾は、小敏の言わんとすることが理解できずに、キョトンとしつつ、あまりに無邪気に感動して、手が痛くなるほどの拍手を惜しまなかった。
確かに、心理学を駆使した「サイコロジカルイリュージョン」という個性的なマジックで注目されるDr.Hooだが、その秀でたルックスでも人々の関心を引いていた。
「まあ、テレビで見たよりイケメンよね~」
恭安楽は、あっけにとられたように、そっとお気に入りの甥っ子の耳元で囁いた。
「叔母さま、そんなことを言ったら叔父さまが気を悪くするよ」
クスクスと笑いながら答えた小敏に、さすがの包教授も困ったような笑いを浮かべる。
「本日は、この素晴らしい劇場の杮落としにお招きいただきありがとうございます。みなさまのご期待にお応えすべく、全力を尽くします!」
とてもアメリカから来たカナダ国籍のマジシャンとは思えないほどの、完璧な北京語でDr.Hooは挨拶をした。それに感心したように、招待客たちは拍手を惜しまなかった。
「では…」
その時、ホテルのウェイターが乾杯用のグラスをトレイに乗せて運んで来た。
それを待っていたかのように、Dr.Hooはグラスではなく、ウェイターが腕にかけていた白いナプキンを取り上げた。
「あ!」
ウェイターが苦情を言うよりも早く、Dr.Hooはそのナプキンを大きく上下に振った。
「おお!」「わあ!「まあ!」
次の瞬間、何でもないナプキンの下から現れたのは、1輪の真紅のバラだった。
「赤いバラの花言葉は『美』」
Dr.Hooはそう言うと、つかつかと女優に近付き赤いバラを捧げるように手渡した。かつて一世を風靡した有名な女優だが、最近は人気に陰りも出てきた。そんな彼女だが、やはり美人女優のオーラは一般人とは違い、艶やかな真っ赤なバラに引けを取らない存在感だ。
「さすがですね」
真剣な表情で文維が呟いた。その意味が理解できない煜瑾が不思議そうに文維を振り返ると、隣にいた小敏までもが、小声で囁いた。
「あれ、造花じゃなくて生花だよ」
「そうなのですか?」
煜瑾はただ、真紅のバラが少し離れて立つここまでも香ってきそうなほど新鮮で美しいな、とは思ったのだが、それ以上の意味が分からない。
「マジック用の造花なら、折りたたむことが出来て、隠しやすいのだよ。けれど、生花はみだりに折れないだろう?その分、マジックに使うのは難しいんだよ」
素直な煜瑾のために、保護者を自認する唐煜瓔が、優しく説明をした。
「ああ!そうですね。文維はすぐにそれに気付いたのですね」
兄の説明よりも、文維の聡明さに煜瑾はときめいていた。
「あ、もう1輪出すよ」
小敏の言葉の通りに、Dr.Hooはもう一度大きく真っ白なナプキンを振った。
「わ~、珍しい色だね~」
今度は、思わず小敏が声をあげるほど、鮮やかなオレンジ色の大輪のバラが現れる。
「本当に、美しいバラですね~」
「私は煜瑾ちゃんに貰ったピンクのバラが好きだわ」
確かに少し主張が強いオレンジ色のバラは、可愛い物好きの恭安楽の好みでは無さそうだ。
「オレンジのバラの花言葉は『勇気』」
そう言ってDr.Hooが1輪のオレンジ色のバラを差し出した相手は、最近話題の不動産会社の女性CEOで、男性中心の業界で、頭角を現す「出来る女」としてマスコミにもよく取り上げられている。たしかに、自信たっぷりの堂々とした彼女には似つかわしい花だった。
「すごいわね。ちゃんと誰にどの花を渡すか、事前に調べてあるのね」
恭安楽が感心したように言うと、煜瑾もなるほどと目を丸くしていた。
「最後のバラです」
Dr.Hooの言葉に、人々が注目する。もはやネタを暴こうとする意地悪な視線は無く、その場にいた観客たちの目は称賛しかなかった。
そんな視線を一斉に浴びながら、Dr.Hooは、華麗に白いナプキンをこれまでで一番高く振り上げた。思わず観客たちの視線はその白い物を追う。それがひらひらと目の高さに舞い降りると、Dr.Hooは優雅にナプキンを掴み、次の瞬間にはその中から真っ白なバラの花束を手にしていた。
「え~!あんな花束をどこから~?」「どうして~?」
観客の中から似たような声が上がる。そして一瞬の後に大きな歓声が上がった。
「白いバラの花言葉は『清純』」
そう言って、甘いマスクのDr.Hooは、市政府高官の家族に近付き、可愛らしい水色のワンピースを着た、中学生くらいの高官の愛娘に手渡した。
「無難な相手を選んだよね」
皮肉屋の小敏が、ニコニコしながらも小さな声でそう言った。
「え?素晴らしいですよね、生花で花束までなんて!」
純粋無垢な煜瑾は、小敏の言わんとすることが理解できずに、キョトンとしつつ、あまりに無邪気に感動して、手が痛くなるほどの拍手を惜しまなかった。
