白雪姫

 清純で美しく、賢くて可愛い煜瑾ちゃんは、深い森の中で7人のお世話係さんたちに大事にされて、幸せに暮らしていました。

「わ~、昨日まで蕾だったお花が、今朝は咲いていましゅよ~。キレイでしゅね~」

 お花が咲いた。
 お日様が暖かい。
 虹が出た。

 と、いうだけでも、煜瑾ちゃんは幸せでした。そんな心のキレイな煜瑾ちゃんは、みんなに愛されていました。
 森の奥で同じ年頃のお友達がいなかったけれども、煜瑾ちゃんは毎日楽しく森で過ごしていたのです。

「いいですか、煜瑾坊ちゃま!知らない人から、物を貰ってはいけませんよ。あげようといわれても要りませんというのですよ」
「はいっ!」

 7人のお世話係のリーダー格である茅執事の言葉に、煜瑾ちゃんは素直に答えます。

「その代わりに、欲しいものがあったら、何でもおっしゃってくださいね」
「ほしいもの~?」

 煜瑾ちゃんは、無邪気な仕草で首を傾げました。それがまた可愛らしくて、周囲のみんなは頬を緩めてしまいます。

「美味しいアップルパイはいかがですか?」
「サーモンのムニエルのレモンソースがお好きですよね」
「いやサーモンなら手巻き寿司の方が…」
「サーモンより魚介たっぷりのパスタにしましょう」
「何を言ってるんだ、やはり海老餃子が一番お気に入りでしょう」

 7人のお世話係さんである、パティシエのそんシェフ、フレンチのちょうシェフ、和食のちんシェフ、イタリアンのシェフ、広東料理のシェフが、我先に煜瑾ちゃんのご機嫌を取ろうと駆け寄ってきました。

「う~ん。煜瑾は、ね~」

 どれも、煜瑾ちゃんが大好きなメニューです。どれを選ぶべきか、小さい煜瑾ちゃんはみんなの期待に応えたいと思いながらも、自分が本当に欲しいものについて悩んでしまいました。

「もちろん、煜瑾坊ちゃまが一番お好きなものは、これに決まってる!」

 最後に登場した総料理長であるようシェフが差し出した「紅焼肉ホンシャオロー」に、煜瑾ちゃんの澄んだ目がさらに輝きました。

「わ~、煜瑾、お肉大しゅきなの~!」

 大喜びの煜瑾ちゃんだったのですが、次の瞬間、フッとその清純な眼差しを曇らせてしまいました。

「煜瑾が…、ほんとうにほしいのは…」

***

 その日、7人のお世話係さんは、唐家のお兄さまに呼ばれて、半日だけお屋敷に戻ることになりました。

「いいですか、煜瑾坊ちゃま。誰が来ても玄関のドアを開けてはいけませんよ。知らない人が声を掛けてきても、決して相手をしては行けません。何も受け取らず、何も与えず、くれぐれも慎重にお留守番して下さいね」

 茅執事は、くどくどと何度も同じようなことを煜瑾ちゃんに言い含めようとします。

「煜瑾坊ちゃまは、私にとっても、ここにいる世話係全員にとっても、お兄さまにとっても、大事な、大事な『宝物』なのです。悪いことが起こらないよう、みんなが心配していますからね。くれぐれも気を付けて下さいね」

 煜瑾ちゃんは最初は熱心に茅執事の言い分を聞いていましたが、最後の方では少しあくびが出そうになり慌てました。

「いいですね、煜瑾坊ちゃま」
「はい!」

 最後の茅執事の念押しに、煜瑾ちゃんはとっても良いお返事をしました。






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