お兄さまといっしょ
「煜瓔哥哥!カフェに行くんでしょう?」
駆け寄ってきたのは、12歳の煜瓔よりもさらに幼い、無邪気な笑顔を浮かべた少年だ。
「急いでいるんだ」
冷ややかにそう言って、煜瓔は宣格を振り返ろうともしなかった。
「僕も!僕も、羽牧大哥に誘われているんです!」
追いすがるようにして言う小さな「弟」に、唐煜瓔は驚いて振り返った。
「何だって?」
ようやく「兄」の関心を引いた宣格は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。右の頬にだけできるエクボが可愛らしくて特徴的だ。
「今、何と言ったんだ、小宣?」
思わず立ち止り、まじまじと宣格の顔を覗き込んで煜瓔は聞き返した。
「だから、僕も羽牧大哥に煜瓔哥哥と一緒にカフェに来るよう誘われたのです」
屈託ない宣格の言葉に、その描いたように美しい眉を寄せ、唐煜瓔はきちんと「弟」に向き直り、丁寧に問い質す。
「羽哥が、君に声を掛けたっていうのか?」
「そうですよ。僕、羽牧大哥と仲良しなんです」
自慢げに話し始めた宣格だったが、カフェに行くことが遅れると気付いて、宣格を促してカフェに向かう廊下を歩き始めた。
「なんで君が羽哥と『仲良し』なんだ」
煜瓔はムッとした態度を隠さずにそう言った。
「羽牧大哥が言ったんです。僕と煜瓔哥哥が『兄弟』なら、羽牧大哥にとっても僕は『弟』だよって」
ちょっと自慢げな「弟」が、なんとなく煜瓔の気に障る。だが、それよりも早く羽牧の顔が見たくて、煜瓔はそれ以上何も言わずにカフェに飛び込んだ。
「羽牧哥!」
すぐにその端整な姿を見つけ、煜瓔は嬉々として羽牧に駆け寄った。
「待たせてゴメン」
「たまたま授業が早く終わったから、先に着いただけだよ。サンドイッチを注文しておいたから、3人で食べよう。飲み物だけ注文しておいでよ」
羽牧はいつもと変わらない優しい笑顔でそう言った。その様子にホッとしながらも、煜瓔と宣格は並んでカフェのカウンターに並びに行った。
「なんで君と羽牧に接点があるんだよ」
「接点って、煜瓔哥哥じゃないですか。煜瓔哥哥を挟んで、僕たちは『兄弟』なんだもん」
当然のように、迷いのない眼差しで答える宣格に、煜瓔は呆れたように言い放った。
「何か、違う」
「?」
煜瓔はオレンジジュースを、宣格はミックスジュースを注文すると、いそいそと羽牧の待つ席に戻った。
「サンドイッチ来てるよ~」
変なプライドや先輩意識の無い羽牧は、いつも自然体で、穏やかで、本当の兄弟のように安心できる。こんな羽牧は、中等部に上がったばかりなのにすでに乗馬部のエースで、学園の備品扱いである白馬も、実際は羽牧の専用馬で、この馬と一緒に春からいくつもの大会にも出場している。
「わ~。僕、玉子サンド好きなんです~」
なんの屈託もなく、嬉しそうに宣格はサンドイッチに手を伸ばした。
「小宣は、素直でかわいいね~。煜瓔もそう思うだろう?」
「……」
目をキラキラさせながら玉子サンドを頬張る宣格を横目で見ながら、煜瓔はわざとらしくため息をついて見せた。
そんな様子を分かり切っているかのように、羽牧は温かく見守るような態度でサンドイッチを取り、「弟」の煜瓔に手渡した。
「煜瓔は、レタスとトマトのサラダが好きだろう?」
自分のことを、誰よりも分かってくれている「兄」に、煜瓔は少し機嫌を直した。
駆け寄ってきたのは、12歳の煜瓔よりもさらに幼い、無邪気な笑顔を浮かべた少年だ。
「急いでいるんだ」
冷ややかにそう言って、煜瓔は宣格を振り返ろうともしなかった。
「僕も!僕も、羽牧大哥に誘われているんです!」
追いすがるようにして言う小さな「弟」に、唐煜瓔は驚いて振り返った。
「何だって?」
ようやく「兄」の関心を引いた宣格は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。右の頬にだけできるエクボが可愛らしくて特徴的だ。
「今、何と言ったんだ、小宣?」
思わず立ち止り、まじまじと宣格の顔を覗き込んで煜瓔は聞き返した。
「だから、僕も羽牧大哥に煜瓔哥哥と一緒にカフェに来るよう誘われたのです」
屈託ない宣格の言葉に、その描いたように美しい眉を寄せ、唐煜瓔はきちんと「弟」に向き直り、丁寧に問い質す。
「羽哥が、君に声を掛けたっていうのか?」
「そうですよ。僕、羽牧大哥と仲良しなんです」
自慢げに話し始めた宣格だったが、カフェに行くことが遅れると気付いて、宣格を促してカフェに向かう廊下を歩き始めた。
「なんで君が羽哥と『仲良し』なんだ」
煜瓔はムッとした態度を隠さずにそう言った。
「羽牧大哥が言ったんです。僕と煜瓔哥哥が『兄弟』なら、羽牧大哥にとっても僕は『弟』だよって」
ちょっと自慢げな「弟」が、なんとなく煜瓔の気に障る。だが、それよりも早く羽牧の顔が見たくて、煜瓔はそれ以上何も言わずにカフェに飛び込んだ。
「羽牧哥!」
すぐにその端整な姿を見つけ、煜瓔は嬉々として羽牧に駆け寄った。
「待たせてゴメン」
「たまたま授業が早く終わったから、先に着いただけだよ。サンドイッチを注文しておいたから、3人で食べよう。飲み物だけ注文しておいでよ」
羽牧はいつもと変わらない優しい笑顔でそう言った。その様子にホッとしながらも、煜瓔と宣格は並んでカフェのカウンターに並びに行った。
「なんで君と羽牧に接点があるんだよ」
「接点って、煜瓔哥哥じゃないですか。煜瓔哥哥を挟んで、僕たちは『兄弟』なんだもん」
当然のように、迷いのない眼差しで答える宣格に、煜瓔は呆れたように言い放った。
「何か、違う」
「?」
煜瓔はオレンジジュースを、宣格はミックスジュースを注文すると、いそいそと羽牧の待つ席に戻った。
「サンドイッチ来てるよ~」
変なプライドや先輩意識の無い羽牧は、いつも自然体で、穏やかで、本当の兄弟のように安心できる。こんな羽牧は、中等部に上がったばかりなのにすでに乗馬部のエースで、学園の備品扱いである白馬も、実際は羽牧の専用馬で、この馬と一緒に春からいくつもの大会にも出場している。
「わ~。僕、玉子サンド好きなんです~」
なんの屈託もなく、嬉しそうに宣格はサンドイッチに手を伸ばした。
「小宣は、素直でかわいいね~。煜瓔もそう思うだろう?」
「……」
目をキラキラさせながら玉子サンドを頬張る宣格を横目で見ながら、煜瓔はわざとらしくため息をついて見せた。
そんな様子を分かり切っているかのように、羽牧は温かく見守るような態度でサンドイッチを取り、「弟」の煜瓔に手渡した。
「煜瓔は、レタスとトマトのサラダが好きだろう?」
自分のことを、誰よりも分かってくれている「兄」に、煜瓔は少し機嫌を直した。
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