氷の告白

「大丈夫、大丈夫ですよ、煜瑾…。泣かないでください」
「文維、文維…、私、わたし…」

 激しく動揺する繊細な煜瑾に、文維は後ろめたさを感じて胸に痛みを感じる。

「煜瑾は悪くない。心配しなくていいんです、煜瑾」

 煜瑾は、最愛の人の温かな腕の中で少しずつ落ち着きを取り戻した。
 自分を心から信じ、慕い、深く愛する清らかな恋人に、文維は耐え難い苦しみを感じた。何よりも、自分よりも大切な人間である煜瑾を傷つけたことが文維は苦しい。それは煜瑾への深い愛情の裏返しでもあった。
 文維は今すぐにでも、不安に怯える煜瑾を抱き寄せ、柔らかな唇を塞ぎ、素肌に触れ、誰も知らない熱い奥まで慈しんで、幸せを感じさせたいと思う。
 だが、それは「今」は出来ない。

「煜瑾」
「…はい」

 悲しそうな声ではあったが、冷静になった煜瑾は素直に返事をした。そんな恋人への気持ちがさらに募る。愛しい人が欲しくて、確かめたくて、どうしようもなくなる。

「…本当に、気にしないで下さい。今夜一晩だけ、集中して考えたいことがあるのです。今夜は眠れないかもしれないし、煜瑾に迷惑かけたくないというだけです」
「迷惑、だなんて…」

 文維は内なる劣情を抑えながら、この上なく優しく煜瑾の頬に触れた。その優しさに安堵した煜瑾は睫毛の長い瞼を閉じて、口づけを待った。そのまま自然に唇を重ねようとした文維の脳裏に、范青䒾の恐ろしい笑みが浮かんだ。

「あっ!文維!」

 反射的に文維は煜瑾を自分から引きはがした。驚いた煜瑾は声を上げるが、理解が追い付かずに、あどけなくその黒瞳を見開いている。

「ゴメン、煜瑾!今夜だけ、何も聞かないで下さい」

 それだけを言うと、文維はその理知的で整った顔を歪め、ゲストルームへと逃げるように駆け込んでいった。

「…文維…。今夜、だけ…?」

 清純な心の中を押しつぶされそうになりながら、煜瑾は涙も枯れたように静かに文維の消えたゲストルームのドアを見つめていた。

***

 翌朝、文維は煜瑾を安心させたくて、少し早く起き出すと恋人のために朝食の仕度を始めた。
 煜瑾のお気に入りであるフレンチトーストの卵液を作り、斜め切りにしたバケットを浸す。
 冷蔵庫の中にあった、昨夜の残りのグリーンリーフにカリカリに焼いた刻んだベーコンを乗せ、パルメザンチーズをたっぷりと振りかけた。
 西瓜とメロン、キウイフルーツをカットして盛り付け、ヨーグルトを添えた。
 そろそろフレンチトーストを焼こうかとした時に、主寝室のドアが開いた。しばらくすると、きちんと身支度を済ませた煜瑾が、文維のいるキッチンに現れた。





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