氷の告白

 温かく、信頼と愛に満ち、幸福な食卓を囲んで、文維と煜瑾は和やかに笑い、食事を続けた。
 文維が煜瑾にサーモンと玉子焼きの手巻き寿司を作り、煜瑾は文維に自分のお気に入りでもある、日本の:梅酒(プラム・ワイン)を勧めた。

「あ…、それで…」

 文維は先ほどから気になっていたことを思い切って訊ねてみた。

「私の知り合いから、煜瑾に連絡が?」
「はい。文維のお知り合いの方が、文維は今、とても難しい患者さんを抱えていて、自宅でも集中しなければいけないのだ、と」

 ね?と確かめるように、煜瑾は小首を傾げた。

「…え?ええ、まあ、そうなのですが…」

 あまりにも無邪気な煜瑾に、文維は押し切られるように頷いた。

「なので、文維が疲れているのは仕方が無いので、私が心配することでは無いと言われました。私はただ、文維を信じて、文維のお仕事が落ち着くまで、静かに見守っていればいいのですって」

 ニコニコしながら話し続ける煜瑾に、文維は現実とは思えずにキョトンとしている。

「はあ…」

 不自然な文維の表情に気付いた煜瑾は、その理由に思い当たらず、純真な眼差しで恋人を見つめ返す。

「文維?」
「その人は、どうやって煜瑾に連絡を?」

 ハッと気づいて文維は質問した。それさえも、煜瑾は不思議そうにしながら、愛くるしい笑顔で答えた。

「最初はメールが来ました。それから…」
「『最初』?」

 思わぬ一言に、文維は驚いて声を上げた。

「はい。最初はメールで、それから、お約束をして、今日の午後、ここでお話をしました」

 あまりの衝撃に、文維は一瞬言葉を失った。今日の午後は、事情を知る范青䒾は文維と一緒にレイモンド医療センターにいたはずだ。一体、誰が、この文維と煜瑾の幸福で安全な場所に足を踏み入れたというのか。
 あまりに清らかで人を疑う心を持たない煜瑾は、文維の反応がどうしてなのか分からずに、ただじっと文維の、不安を通り越して怯えるような目を見つめるしかなかった。






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