氷の告白

 恋人からの、心からの感謝の言葉に、高貴な唐煜瑾は優美な笑顔を浮かべて応えた。

「当然です。文維には、その価値があるのですから」

 そう言うと、煜瑾は文維の手を取り、上品に食卓へと誘導した。その優しさに文維は、本当に自分は幸せだと思う。

「煜瑾は、本当に私のことを信じて、理解してくれているのですね。嬉しいです」

 あまりにも鷹揚で、高雅な煜瑾の態度に幸福感を噛み締めていた文維だったが、次の煜瑾の言葉に虚を突かれた。

「うふふ。実は、文維のお知り合いからご連絡をいただいたのです」
「え?」

 文維は、煜瑾が何を言ったのか一瞬分からなかった。だが、煜瑾はそんな恋人を意に介さず、ニコニコと食事の支度を始める。
 煜瑾は、パリパリとした海苔を手に取り、慎重に酢飯を乗せた。ちょっと迷って大葉を乗せ、文維が好きなトロの切り身を置いてクルリと巻いた。気持ちを込めて作った手巻き寿司を、恋人に手渡そうとして、煜瑾はハッとした。

「あ、ワサビを入れるのを忘れました!」

 慌てる煜瑾に、文維は穏やかに微笑みかけた。

「そのままでいいですよ」

 文維の優しさにホッとした煜瑾は、天使の笑顔で愛のこもった巻き寿司を手渡した。それを嬉しそうに受け取って、文維は煜瑾を見詰めた。

「じゃあ、煜瑾の分は私が作りましょう」
「ダメです。文維は、先に食べて下さい」

 自分が作ったものを、早く恋人に「美味しい」と言って欲しくて、煜瑾は小さなワガママを言う。その意図を察した文維は、二ッと笑って手にしたものをゆっくりと口に運んだ。
 そんな仕草さえセクシーで、煜瑾は頬を染めてしまうが、文維にはそれが愛しくて笑ってしまう。

「どうですか?美味しい?」

 ワクワクした、子供のように純真な眼差しで、煜瑾が文維に訊ねる。その様子が清純過ぎて、稚くて、文維は幸せに満たされる。

「こんなに美味しいスシは、生まれて初めて食べました」

 大げさ過ぎる文維の賞賛に、煜瑾は素直に喜べず、ほんのりとその美貌に不服を乗せた。

「もう、文維ったら。どうしていつもそんな風に私をからかうのですか」
「そんなことしていませんよ。大好きな煜瑾が、私のために作ってくれたものですよ?この世で一番美味しいに決まっていますよ」

 温柔な表情でありながらも誠実さを感じさせる文維に、素直な煜瑾もまた心から幸せに満たされた。





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