氷の告白

「お帰りなさい、文維!」

 相変らず、:神々(こうごう)しいほどの気品と愛らしさで、唐煜瑾は最愛の包文維を出迎えた。
 昨日の恋人は疲れ切っていて、同じ部屋で休むことさえ避けたほどだった。そんな文維をずっと心配していた煜瑾だが、帰宅した文維の晴れやかな表情に、口には出さないもののホッとした。

「煜瑾、ただいま」

 昨日とは打って変わった明るい眼差しで、文維は煜瑾を見詰めた。そこに自分を愛してくれる誠実さと甘い官能を認め、煜瑾は何も言わずに満足そうに頷いた。

「今夜は…、スシですか?」

 文維は寿司酢の香りを敏感に察し、嬉しそうに煜瑾に訊ねた。

「そうなのです!分かりますか?実は、:小敏(しょうびん)に教えてもらって、日本料理店の手巻き寿司のデリバリーを頼んだのです」
「へえ、そんなものがあるんですね」

 微笑む煜瑾を優しく抱き寄せ、文維はダイニングへと向かった。

「昨日も、今日も、煜瑾が夕食の支度をしてくれましたから、明日は私が何か作りますね」

 そう言うと、文維はダイニングテーブルを一望した。そこには、家事に不慣れな煜瑾が、精一杯のおもてなしをしようと綺麗に並べた手巻き寿司セットが並んでいる。

「文維には、朝食を作ってもらったので夕食くらいは…。それに、ただデリバリーを並べただけですよ」

 はにかんだ様子の煜瑾が奥ゆかしく、気品があって文維を魅了する。これほど美しく、穢れを知らない天使が、誰よりも自分の近くにいてくれる喜びを噛み締めていた。

「君がここにいて、一緒に食事をできるだけでも、私は充分に幸せですよ、煜瑾」
「…私もです、文維」

 熱っぽい視線で見つめ合い、無言のまま信頼し切った穏やかな様子で、無邪気な2人はしっかりと抱き合った。

「:昨夜(ゆうべ)のこと、説明させて下さい」

 腕の中の煜瑾に、文維は真剣な声で伝えた。

「ええ。でも、それはお食事の後にしましょう。文維もお疲れでしょう?」

 屈託なく振る舞う煜瑾に、文維は不思議な気がした。

「煜瑾?」

 美しい恋人の顔を凝視しながら、文維はその真意を汲み取ろうとする。
 けれど煜瑾は:訝(いぶか)しげにすることも無く、相変わらず穢れのない天使の笑顔で、澄んだ黒い瞳で恋人を見つめ返した。

「私は、いつでも文維を信じています。信じ続けられると確信できたから、文維と一緒に生きていくことを選んだのです」

 あまりにも清純な煜瑾に、文維は感動し、声を震わせて言った。

「…ありがとう、煜瑾。それほどまでに、私を信じてくれるだなんて」





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