おかあさまといっしょ

 楽しい時間を過ごしていた煜瑾、恭安楽と胡娘の3人だったのだが、誰もいないはずの庭の方から音がして、ハッとした。
 恭安楽は不安を感じて、窓の方を警戒しながら、煜瑾を手招きして抱き寄せた。

「おかあしゃま」

 煜瑾も不安が隠せない。

「胡娘!」

 お母さまが声を掛けると、家政婦の胡娘も緊張した面持ちで駆け寄る。

「奥様、いかがいたしましょう?」
「気を付けて、庭に、誰かが…」

 しっかりと煜瑾を庇いながら、お母さまは庭に向かって指をさした。それを見て、胡娘も2人を守るようにして前に立ちながら、一面ガラス張りのサンルームの向こうを睨みつけた。

 その時だった。

 植栽の陰から何者かが飛び出し、サンルームのガラス扉に手をかけた。

「奥様!お逃げ下さい!」

 反射的に危険を感じた、聡明な胡娘が叫んだ。

「ねえや!」

 お母さまに抱き上げられながら、煜瑾は大好きなねえやの安全が心配でならない。

「胡娘、来なさい!」

 お母さまも、勝ち気な家政婦を気に掛けるように振り返った。
 セキュリティも万全な唐家の邸宅の、最奥のサンルームは安全を確信していて、フランス窓にも鍵が掛かっていない。
 侵入者を気にする恭安楽は、振り返って、その窓に手を掛けた12、3歳にしか見えない少年を確認した。

「子供?」

 少し油断したお母さまだったが、次の瞬間少年が窓を開けると、危険を感じて、ギュッと煜瑾を抱き締めた。

「誰か来て!」

 胡娘が悲鳴のように叫ぶと、少年はビクリとして、急に慌てだした。窓を乱暴に全開にし、サンルームへと飛び込んでくる。

「煜瑾ちゃん、行きますよ!」

 お母さまは怯える煜瑾をしっかりと抱き、リビングのドアに向かって駆けだそうとした。

「待て、煜瑾!行くな!」

 思わぬことに少年が呼び止め、煜瑾はハッとして、抱かれたお母さまの肩越しに、自分の名前を呼んだ少年の顔を見た。

「煜瑾ちゃん、知っている子なの?」

 その様子に気付き、恭安楽は思わず足を止め、小声で問い質した。

「…し、…知らないでしゅ~」

 急に怖くなった煜瑾は、そう言ってそのままお母さまに縋りついて泣きだした。





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