おかあさまといっしょ
恭安楽と手を繋いで、唐煜瓔の出勤を見送った煜瑾は、少し不安そうな顔でお母さまを見上げた。
「おかあしゃま…」
「なあに?どうしたの、煜瑾ちゃん?」
清純で天使のような美貌の稚い煜瑾が、思い詰めたような表情をしていると、見ている大人の方が、胸が痛む。それほどに人の心を動かす、煜瑾の高貴さと美しさなのだ。
「煜瑾は、楊シェフにごめんなしゃいを言うのでしゅ…」
「そうね。知らなかったこととは言え、緑のお野菜を残してしまったんですものね」
自分のために心を込めて美味しい料理を作ってくれた、唐家専属の楊シェフの気持ちを、煜瑾は「緑の野菜はお化けになる」という言葉を信じてしまい、傷付けたことを、深く反省していた。
「…楊シェフは、もう煜瑾の大しゅきなデザートは、ちゅっくてあげないのでしゅか?」
「まさか!そんなことはあるわけないですよ」
小さな煜瑾にとっては絶望的な気持ちになっていたが、煜瑾を大切に思うねえやの胡娘がすぐに否定した。
それを大きく頷いて肯定して、お母さまは視線を煜瑾の高さまで下げると、ニッコリとして、優しく説明して下さった。
「煜瑾ちゃんがごめんなさいって言う以上に、これからは緑のお野菜もたくさん食べますってお約束したら、きっと楊シェフは今日も、明日も、これからずっと煜瑾ちゃんの好きな物ばかり用意してくれますよ」
「本当でしゅか?」
煜瑾は、少し元気になって、お母さまにギュッと抱き付いた。
「もちろん、本当ですよ。お母さまは煜瑾ちゃんに嘘はつきませんもの。さあ、心配しないで、お母さまと胡娘と一緒に、楊シェフに会いに行きましょう」
煜瑾は右手をお母さま、左手を胡娘に繋がれて、ご機嫌よく厨房へと向かった。
「楊シェフ、いいかしら?煜瑾ちゃんからお話があるのよ」
明るい恭安楽が声を掛けると、楊シェフを筆頭に、厨房スタッフが何事かと振り返った。
楊シェフは、中華料理だけでなく世界各国の料理に通じており、言わば厨房の総監督である。その下に、中華担当、フレンチ担当、和食担当、そしてデザート担当などそれぞれの専門スタッフがいる。
唐家の煜瓔、煜瑾兄弟をはじめ、多くの使用人の朝食から昼食、時にはゲストを迎えた唐家の晩餐会まで、全てが楊シェフの采配によるものだ。
「おや、煜瑾さま、こんな所までどうされました?」
楊シェフは、そんな自分の城とも言える厨房に、思いもよらず、この唐家の王子さまを迎えることになり、キョトンとしている。
腰をかがめて煜瑾を覗き込む楊シェフは、広州に暮らす孫のことを重ねていた。
優しそうに笑いかける楊シェフに、煜瑾は勇気を持って口を開いた。
「あのね…煜瑾は、楊シェフに、ごめんなしゃいって言うの…」
「はい?」
煜瑾は、たどたどしいながらも、楊シェフに誠意をこめて、これまでのいきさつを説明し、緑の野菜を食べ残した理由を述べ、謝罪した。
「ごめんなしゃい。これから煜瑾は、楊シェフのちゅくってくれたものは全部いただきましゅ。だから、楊シェフも煜瑾の大しゅきなデザートをちゅくってあげて欲しいのでしゅ」
そこまで言って煜瑾は、楊シェフからの返事が不安でドキドキしていた。その大きな黒い瞳が潤んでいるのを見た楊シェフは、この素直で聡明な小さな子が、どれほど胸を痛めているのかを思い知った。
「おかあしゃま…」
「なあに?どうしたの、煜瑾ちゃん?」
清純で天使のような美貌の稚い煜瑾が、思い詰めたような表情をしていると、見ている大人の方が、胸が痛む。それほどに人の心を動かす、煜瑾の高貴さと美しさなのだ。
「煜瑾は、楊シェフにごめんなしゃいを言うのでしゅ…」
「そうね。知らなかったこととは言え、緑のお野菜を残してしまったんですものね」
自分のために心を込めて美味しい料理を作ってくれた、唐家専属の楊シェフの気持ちを、煜瑾は「緑の野菜はお化けになる」という言葉を信じてしまい、傷付けたことを、深く反省していた。
「…楊シェフは、もう煜瑾の大しゅきなデザートは、ちゅっくてあげないのでしゅか?」
「まさか!そんなことはあるわけないですよ」
小さな煜瑾にとっては絶望的な気持ちになっていたが、煜瑾を大切に思うねえやの胡娘がすぐに否定した。
それを大きく頷いて肯定して、お母さまは視線を煜瑾の高さまで下げると、ニッコリとして、優しく説明して下さった。
「煜瑾ちゃんがごめんなさいって言う以上に、これからは緑のお野菜もたくさん食べますってお約束したら、きっと楊シェフは今日も、明日も、これからずっと煜瑾ちゃんの好きな物ばかり用意してくれますよ」
「本当でしゅか?」
煜瑾は、少し元気になって、お母さまにギュッと抱き付いた。
「もちろん、本当ですよ。お母さまは煜瑾ちゃんに嘘はつきませんもの。さあ、心配しないで、お母さまと胡娘と一緒に、楊シェフに会いに行きましょう」
煜瑾は右手をお母さま、左手を胡娘に繋がれて、ご機嫌よく厨房へと向かった。
「楊シェフ、いいかしら?煜瑾ちゃんからお話があるのよ」
明るい恭安楽が声を掛けると、楊シェフを筆頭に、厨房スタッフが何事かと振り返った。
楊シェフは、中華料理だけでなく世界各国の料理に通じており、言わば厨房の総監督である。その下に、中華担当、フレンチ担当、和食担当、そしてデザート担当などそれぞれの専門スタッフがいる。
唐家の煜瓔、煜瑾兄弟をはじめ、多くの使用人の朝食から昼食、時にはゲストを迎えた唐家の晩餐会まで、全てが楊シェフの采配によるものだ。
「おや、煜瑾さま、こんな所までどうされました?」
楊シェフは、そんな自分の城とも言える厨房に、思いもよらず、この唐家の王子さまを迎えることになり、キョトンとしている。
腰をかがめて煜瑾を覗き込む楊シェフは、広州に暮らす孫のことを重ねていた。
優しそうに笑いかける楊シェフに、煜瑾は勇気を持って口を開いた。
「あのね…煜瑾は、楊シェフに、ごめんなしゃいって言うの…」
「はい?」
煜瑾は、たどたどしいながらも、楊シェフに誠意をこめて、これまでのいきさつを説明し、緑の野菜を食べ残した理由を述べ、謝罪した。
「ごめんなしゃい。これから煜瑾は、楊シェフのちゅくってくれたものは全部いただきましゅ。だから、楊シェフも煜瑾の大しゅきなデザートをちゅくってあげて欲しいのでしゅ」
そこまで言って煜瑾は、楊シェフからの返事が不安でドキドキしていた。その大きな黒い瞳が潤んでいるのを見た楊シェフは、この素直で聡明な小さな子が、どれほど胸を痛めているのかを思い知った。