おかあさまといっしょ

「煜瑾?私は煜瑾くらいの頃から、毎日のように緑の野菜を食べていますよ」
「煜瓔お兄ちゃま…」

 兄の言葉に、煜瑾は泣き止んで、恐る恐る振り返った。

「……。ミドリの食べ物で、オバケになるのは、ウソなのでしゅか?」

 聡明な煜瑾はお母さまやお兄さまが言わんとすることに気が付いた。幼い煜瑾を傷つけまいとして、恭安楽は、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、優しく小さな天使を抱き締めた。

「そうねえ。嘘では無いかもしれないけれど、間違って伝わったのかもしれないわね?」
「まちがい?」

 あどけなく煜瑾が小首を傾げると、その愛らしさに、唐煜瓔の頬が緩む。
 泣くことを忘れた煜瑾にホッとして、恭安楽は言葉を続ける。

「本当にお化けになってしまう『魔法の緑のお野菜』は、どこかにあるのかもしれないけれど、それは上海では手に入らないのよ、きっと」
「マホーのミドリのおやしゃい?」

 屈託のない、清らかで美しい瞳で、煜瑾は大好きなお母さまの優しい笑顔を見詰めた。

「そうよ。普通の緑のお野菜は、煜瑾ちゃんや、お兄さまたちや、お母さまを元気にしてくれるけれど、『魔法の緑のお野菜』はお化けになってしまうのかもしれないの」

 声を潜めたお母さまの説明に、煜瑾は少し眉を寄せた。

「でもようシェフなら、きっとお化けになるような悪い『魔法の緑のお野菜』を見分けてくれる。煜瑾の食卓に、そんな危険な物を出すはずないよ」

 煜瓔お兄さまも同調して励ましてくれたので、煜瑾はホッとして素直に大きく頷いた。

「だから、これからは、『魔法の緑のお野菜』の心配をしないでね。普通の緑のお野菜はどれだけ食べても大丈夫ですからね」

 子供なりにようやく納得した顔をする煜瑾に、恭安楽はお皿に乗った、アスパラガスの穂先のバター炒めをフォークに挿してカワイイ天使の口元に運んだ。

「こんなに美味しいのに、お化けになるはずなんてないもの」

 お母さまが優しくそう言うのを、不安そうに見ていた煜瑾だったが、勇気を出してパクリとアスパラを口に入れた。
 ギュッと目を瞑って、必死に噛み始めた煜瑾に、恭安楽だけでなく、兄の唐煜瓔も励ますように見守っている。
 ようやくゴクリと呑み込んだ煜瑾は、妙な表情を浮かべた。

「どう、煜瑾ちゃん?」

 慈しみ深い笑顔のお母さまに覗き込まれ、煜瑾はビックリしたような顔をして、それから天使の笑みを浮かべた。

「とっても、おいしいでしゅね」

 煜瑾はすっかりご機嫌になり、お母さまが勧める緑の野菜を、これまでの分を取り戻すようにパクパクと食べ始めた。

「煜瑾が、こんなにたくさんの緑の野菜を食べたとなったら、楊シェフがどれほど喜ぶかしれないね。きっと茅執事も煜瑾を褒めてくれるに違いないよ」

 あ~んと、大きくお口を開けてニコニコと恭安楽に食べさせてもらっていた煜瑾が、大好きな兄の一言にハッと顔色を変えた。




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