おかあさまといっしょ
「煜瑾ちゃん!」
誰よりも先にドアに縋りついた恭安楽は、内側の煜瑾を励ますように声を掛けた。
「おか~しゃま~」
救いを求める小さい天使を助けようとするお母さまだったが、内開きのドアゆえに、煜瑾がドアのすぐそばにいては、力づくで開けようにも、煜瑾を突き飛ばすことになりかねないため、どうしていいか分からずにオロオロしてしまう。
「お母さま、我々に任せて下さい」
追いついた文維と小敏が体当たりでドアを開けようとして、大声で叫んだ。
「煜瑾!イイ子だから、ドアから離れて!」
「小敏!」
煜瑾は頼もしい親友の小敏もが助けに来てくれたのだと、明るい声になった。
だがそれも束の間のことだった。
「や~ん。イヤでしゅ~。放して~」
「煜瑾!」
「文維おにいちゃま~、たしゅけて~」
煜瑾がドアの向こうで「犯人」に捕まった、と察した文維たちに動揺が広がる。
「煜瑾!煜瑾!」
動転した文維が、やみくもに硬い木製のドアに体当たりを始めると、恭安楽と小敏は驚いた。
「ムチャはやめなよ、文維!」
「文維、やめて!」
慌てて止めようとする2人だったが、文維は聞こえないかのようにドアにぶつかっていく。それを黙って見ていられる小敏ではない。
「同時に行くよ、文維!」
「あ、ああ」
2人は呼吸を合わせて力いっぱいでドアに向かった。
***
「きゃ~っ」
文維と小敏がドアに体当たりした瞬間、恭安楽が悲鳴を上げたのも仕方がなかった。3人の周囲は暗転し、まるで真っ暗な穴の中へ落ちて行くような感覚だった。
「トンネルに落ちていくコレって、『不思議の国のアリス』へのオマージュかな?」
相変らず気楽な、姿の見えない小敏の声を聞きながら、文維は苛立ち、恭安楽は(そうなのかしら?)と無邪気に考えを巡らせていた。
「え?」
気が付くと、恭安楽、包文維、羽小敏は、ゲストハウスの外にいた。
そこは広大な唐家の庭園で、見慣れない遊具が並んでいた。
「ここは…、唐家のお庭よねえ?」
恭安楽はキョロキョロし、好奇心旺盛な小敏は1歩足を踏み出す。
「あれ?」
小敏は、2歩目を踏み出そうとして、前に進めないことに気付いた。
「あれ?何これ?」
恐る恐る小敏が手を伸ばすと、そこには目に見えない壁があった。ガラスのように透明な壁があり、そこからは誰もが阻まれてしまう。
その時だった。
「い~ち、に~、さ~ん…」
幼く愛らしい声が聞こえてきた。
3人が目を凝らしてよく見ると、この声のする方にはベンチ型のゆったりしたブランコがあり、そこに座って数を数えているのは、可愛い煜瑾の姿だった。
その背後には、例の少年が立っていて、ブランコを揺らしていた。
「煜瑾ねえ~、100まで数えられるの~。煜瓔おにいしゃまが、賢いねって。うふふ」
大好きなお兄さまに褒められた時のことを思い出し、嬉しそうに煜瑾が言うと、少年がブランコを押す手を止めた。
「煜瑾、知ってる?」
「何を、でしゅか?」
無邪気な煜瑾は、カナダ唐家の伯母さまにいただいた大きなテディベアを抱いて、楽しい気持ちで応えた。
「ピーマンとか、青梗菜とか、エンドウ豆のような、緑の野菜を食べると…」
「煜瑾は、ピーマン、大しゅき~。楊シェフのちゅくったピーマンの肉詰めは、とっても美味しいのでしゅ!」
ご機嫌な煜瑾に、少年は冷ややかに言った。
「緑の野菜は、お化けの食べ物なんだ。緑の野菜を食べると、お化けになるんだ」
少年の言葉に、煜瑾はそれまで浮かべていた天使の笑顔を失い、その美しい顔をこわばらせた。
誰よりも先にドアに縋りついた恭安楽は、内側の煜瑾を励ますように声を掛けた。
「おか~しゃま~」
救いを求める小さい天使を助けようとするお母さまだったが、内開きのドアゆえに、煜瑾がドアのすぐそばにいては、力づくで開けようにも、煜瑾を突き飛ばすことになりかねないため、どうしていいか分からずにオロオロしてしまう。
「お母さま、我々に任せて下さい」
追いついた文維と小敏が体当たりでドアを開けようとして、大声で叫んだ。
「煜瑾!イイ子だから、ドアから離れて!」
「小敏!」
煜瑾は頼もしい親友の小敏もが助けに来てくれたのだと、明るい声になった。
だがそれも束の間のことだった。
「や~ん。イヤでしゅ~。放して~」
「煜瑾!」
「文維おにいちゃま~、たしゅけて~」
煜瑾がドアの向こうで「犯人」に捕まった、と察した文維たちに動揺が広がる。
「煜瑾!煜瑾!」
動転した文維が、やみくもに硬い木製のドアに体当たりを始めると、恭安楽と小敏は驚いた。
「ムチャはやめなよ、文維!」
「文維、やめて!」
慌てて止めようとする2人だったが、文維は聞こえないかのようにドアにぶつかっていく。それを黙って見ていられる小敏ではない。
「同時に行くよ、文維!」
「あ、ああ」
2人は呼吸を合わせて力いっぱいでドアに向かった。
***
「きゃ~っ」
文維と小敏がドアに体当たりした瞬間、恭安楽が悲鳴を上げたのも仕方がなかった。3人の周囲は暗転し、まるで真っ暗な穴の中へ落ちて行くような感覚だった。
「トンネルに落ちていくコレって、『不思議の国のアリス』へのオマージュかな?」
相変らず気楽な、姿の見えない小敏の声を聞きながら、文維は苛立ち、恭安楽は(そうなのかしら?)と無邪気に考えを巡らせていた。
「え?」
気が付くと、恭安楽、包文維、羽小敏は、ゲストハウスの外にいた。
そこは広大な唐家の庭園で、見慣れない遊具が並んでいた。
「ここは…、唐家のお庭よねえ?」
恭安楽はキョロキョロし、好奇心旺盛な小敏は1歩足を踏み出す。
「あれ?」
小敏は、2歩目を踏み出そうとして、前に進めないことに気付いた。
「あれ?何これ?」
恐る恐る小敏が手を伸ばすと、そこには目に見えない壁があった。ガラスのように透明な壁があり、そこからは誰もが阻まれてしまう。
その時だった。
「い~ち、に~、さ~ん…」
幼く愛らしい声が聞こえてきた。
3人が目を凝らしてよく見ると、この声のする方にはベンチ型のゆったりしたブランコがあり、そこに座って数を数えているのは、可愛い煜瑾の姿だった。
その背後には、例の少年が立っていて、ブランコを揺らしていた。
「煜瑾ねえ~、100まで数えられるの~。煜瓔おにいしゃまが、賢いねって。うふふ」
大好きなお兄さまに褒められた時のことを思い出し、嬉しそうに煜瑾が言うと、少年がブランコを押す手を止めた。
「煜瑾、知ってる?」
「何を、でしゅか?」
無邪気な煜瑾は、カナダ唐家の伯母さまにいただいた大きなテディベアを抱いて、楽しい気持ちで応えた。
「ピーマンとか、青梗菜とか、エンドウ豆のような、緑の野菜を食べると…」
「煜瑾は、ピーマン、大しゅき~。楊シェフのちゅくったピーマンの肉詰めは、とっても美味しいのでしゅ!」
ご機嫌な煜瑾に、少年は冷ややかに言った。
「緑の野菜は、お化けの食べ物なんだ。緑の野菜を食べると、お化けになるんだ」
少年の言葉に、煜瑾はそれまで浮かべていた天使の笑顔を失い、その美しい顔をこわばらせた。
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