おかあさまといっしょ

 ハッと気が付くと、恭安楽は見覚えのある場所にいた。

「ここは…、自宅?」

 文維を育て、今は最愛の夫である包伯言と2人で暮らす、上級公務員のアパートの寝室のベッドの上に、恭安楽はボンヤリと座っていた。気持ちの整理がつかず、恭安楽はキョロキョロと周囲を見回していたが、すぐに大切なことを思い出した。

「煜瑾ちゃん!」

 その時、寝室のドアが開き、お気に入りの甥である羽小敏が現れた。

「叔母さま!」
「なんていいタイミングなんでしょう!」

 恭安楽は、ホッとした様子で小敏を迎えた。

「助けにきてくれたのね?」
「これって、また煜瑾の夢の中なの?」

 立ち上がった、姉のようにさえ見える若々しい恭安楽を抱きすくめ、事情が掴めない小敏は戸惑いを見せながらも、状況を理解しようとしていた。

「そうよ!これは煜瑾ちゃんの夢の中…。何者かがどれだけ干渉しようと、この夢の主人公は煜瑾ちゃんだもの。煜瑾ちゃんの知らない場所へ行けるはずはないわ」

 小敏の言葉に、恭安楽は冷静に分析をすることが出来た。

「そうよ。煜瑾ちゃんは必ず見つけられるわ」

 叔母の呟きに、小敏も3歳の稚い煜瑾が居ないことに気付いた。

「それで、ボクの大好きなカワイイ煜瑾ちゃんはドコなの、叔母さま?」

 周囲を見回す小敏に、恭安楽はハッとして腕を掴んで問い質した。

「それより、文維は?文維は一緒じゃないの?」
「え?あ、ああ、文維は…、多分、嘉里公寓じゃないかな?」

 この夢の中に入る前の情報を、小敏は思い浮かべた。
 午前の診察を終え、昼休みに、従弟が大人の煜瑾がいるはずの嘉里公寓に恋人の様子を見に行くはずだと、小敏は知っていた。

「じゃあ、文維はきっと煜瑾ちゃんを助けに行っているはずね」

 確信を得た恭安楽は、ニヤリとほくそ笑んだ。
 息子とその恋人との深い愛情と絆を、母である恭安楽も強く信じているのだ。

「ねえ、叔母さま。何がどうなっているの?ボクに分かるように説明してよ」

 問われて、恭安楽は、まるで少女のように瞳をキラキラさせた、いたずらっ子の顔をして答える。

「煜瑾ちゃんはね、悪い魔物に囚われてしまったの。私たちが助け出しに行かねばならないわ」

 おとぎ話のような譬えに、理解の早い小敏も叔母と同じく目を輝かせた。

「ファンタジーなら、ボクに任せてよ、叔母さま!」

 頼もしい甥の言葉に、恭安楽は嬉しそうに温かい両掌で色白の美青年の頬を包んだ。子供の頃から、何度もこんな風に優しく小敏を慈しんできたのだ。お互いに穏やかにそれを懐かしんだ。

「さすが、こういう時に役に立つのは小敏ね。さあ、煜瑾ちゃんを魔物の手から救い出しに行くわよ!」
「やった!今回は、カワイイ煜瑾を悪い魔物から助けに行くという、クエストなんだね」

 得心した2人は、笑顔で見つめ合い、楽しそうに大きく頷いた。




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