おかあさまといっしょ
「お前は黙ってろ、ババア!」
「ば、ババアですって!」
あまりの暴言に、開いた口も塞がらず、返す言葉も無くした恭安楽に、煜瑾が反応した。
煜瑾は、涙で潤んだ黒い瞳に怒りを浮かべ、その小さな体を震わせるようにして、叫んだ。人見知りがちで、大人しい煜瑾には珍しいことだ。
「煜瑾の大事なおかあしゃまに、無礼は許しましぇん!」
恐らくは、内心怯えているのだろうが、煜瑾は幼いなりに勇気を鼓舞して声を上げる。そして、守られるようにして抱かれていた煜瑾が、ゆっくりとお母さまの腕の中から抜け出し、男を睨みつけながら両手を開いて、庇うようにお母さまの前に立った。
「煜瑾は男の子だから、おかあしゃまをお守りしゅるのでしゅ!」
「煜瑾ちゃん!もういいわ。もう、この人に逆らったりしないで」
心配する恭安楽は、男の怒りを逆なでするような煜瑾に慌てて、すぐに抱き寄せようとしたのだが、煜瑾はその手を振り払い、怒りに任せて男を叱りつけた。
「みどりのおやしゃいは美味しいのでしゅ!ウソちゅいたでしゅね!煜瑾に、みどりのおやしゃいはオバケになるって、ウソちゅいたでしゅ!」
男は、煜瑾が自分の言った言葉を信じて、忘れずにいたことにハッとなった。
「ウソは、悪いことでしゅ!煜瑾は、そんな悪い子とお友達にならないでしゅ!」
純粋で、冒しがたい気品を持つ幼子に、男は一瞬圧倒されたが、すぐに目を細めてニヤリとした。この特別な天使のような子を、今こそ手に入れることが出来るという期待が抑えられないようだ。
「用があるのは、煜瑾だけだ。さあ、一緒に来い!」
男は急に煜瑾に近付いた。大きな手を伸ばし、小さな煜瑾の肩を掴んだ。その強引さに、煜瑾はビクリと怯んで、身を震わせた。そして恐怖が勇気を上回ってしまい、泣き出してしまう。
「イヤ~!煜瑾は~おかあしゃまといっしょじゃないと~イヤでしゅ~」
「ダメよ!煜瑾ちゃんを連れて行かせないわ」
大事な天使を手放してはならないと、恭安楽は慌てて煜瑾の胴に腕を回して抱き寄せようとした。
だが、男は一瞬早く煜瑾を引き寄せていた。
「おかあしゃま!」
「煜瑾!」
そのまま恭安楽は白い部屋から、真っ暗な闇へと飲み込まれた。
「おか~しゃま~っ!」
怯える幼子の声に、恭安楽は絶望し、涙を浮かべた。
***
男に抱えられたまま、煜瑾はどこかに連れて行かれてしまった。
「ここはどこ~?おかあしゃま~」
煜瑾は男に抱えられたまま、泣きじゃくっていた。
「あ~ん。おかあしゃま~。煜瑾は、おうちに帰りたいでしゅ~」
しばらくの間、いつまでも泣くばかりの煜瑾を、男は当惑した表情で見つめていた。
やがて、落ち込んだ低い声で、男はポツリと呟いた。
「煜瑾、本当に俺のことを忘れたのか?」
「ば、ババアですって!」
あまりの暴言に、開いた口も塞がらず、返す言葉も無くした恭安楽に、煜瑾が反応した。
煜瑾は、涙で潤んだ黒い瞳に怒りを浮かべ、その小さな体を震わせるようにして、叫んだ。人見知りがちで、大人しい煜瑾には珍しいことだ。
「煜瑾の大事なおかあしゃまに、無礼は許しましぇん!」
恐らくは、内心怯えているのだろうが、煜瑾は幼いなりに勇気を鼓舞して声を上げる。そして、守られるようにして抱かれていた煜瑾が、ゆっくりとお母さまの腕の中から抜け出し、男を睨みつけながら両手を開いて、庇うようにお母さまの前に立った。
「煜瑾は男の子だから、おかあしゃまをお守りしゅるのでしゅ!」
「煜瑾ちゃん!もういいわ。もう、この人に逆らったりしないで」
心配する恭安楽は、男の怒りを逆なでするような煜瑾に慌てて、すぐに抱き寄せようとしたのだが、煜瑾はその手を振り払い、怒りに任せて男を叱りつけた。
「みどりのおやしゃいは美味しいのでしゅ!ウソちゅいたでしゅね!煜瑾に、みどりのおやしゃいはオバケになるって、ウソちゅいたでしゅ!」
男は、煜瑾が自分の言った言葉を信じて、忘れずにいたことにハッとなった。
「ウソは、悪いことでしゅ!煜瑾は、そんな悪い子とお友達にならないでしゅ!」
純粋で、冒しがたい気品を持つ幼子に、男は一瞬圧倒されたが、すぐに目を細めてニヤリとした。この特別な天使のような子を、今こそ手に入れることが出来るという期待が抑えられないようだ。
「用があるのは、煜瑾だけだ。さあ、一緒に来い!」
男は急に煜瑾に近付いた。大きな手を伸ばし、小さな煜瑾の肩を掴んだ。その強引さに、煜瑾はビクリと怯んで、身を震わせた。そして恐怖が勇気を上回ってしまい、泣き出してしまう。
「イヤ~!煜瑾は~おかあしゃまといっしょじゃないと~イヤでしゅ~」
「ダメよ!煜瑾ちゃんを連れて行かせないわ」
大事な天使を手放してはならないと、恭安楽は慌てて煜瑾の胴に腕を回して抱き寄せようとした。
だが、男は一瞬早く煜瑾を引き寄せていた。
「おかあしゃま!」
「煜瑾!」
そのまま恭安楽は白い部屋から、真っ暗な闇へと飲み込まれた。
「おか~しゃま~っ!」
怯える幼子の声に、恭安楽は絶望し、涙を浮かべた。
***
男に抱えられたまま、煜瑾はどこかに連れて行かれてしまった。
「ここはどこ~?おかあしゃま~」
煜瑾は男に抱えられたまま、泣きじゃくっていた。
「あ~ん。おかあしゃま~。煜瑾は、おうちに帰りたいでしゅ~」
しばらくの間、いつまでも泣くばかりの煜瑾を、男は当惑した表情で見つめていた。
やがて、落ち込んだ低い声で、男はポツリと呟いた。
「煜瑾、本当に俺のことを忘れたのか?」