ふたたび、文維くんのこいびと
煜瑾は、ご機嫌だった。
右手に恭安楽、左に文維を侍(はべ)らせて、子供用にひと口サイズにカットされたサンドイッチを、好きな物だけ選び、出来立てのバナナジュースに舌鼓を打っていた。
「はぁ~、おいしいでしゅね~」
穢れを知らない、清らかな笑顔で、煜瑾は恭安楽と文維の顔を見比べた。
「じゃあ、次は、このキュウリのサンドイッチはどうですか?」
文維が差し出すと、逃げるようにギュッと恭安楽にしがみ付いた。小さな煜瑾は緑色の食べ物が苦手なのだ。
「や~ん。キュウリはイヤでしゅ~」
甘えて、グリグリと顔を恭安楽に押し付け、煜瑾はチラリと文維を恨めし気に見た。それが、3歳児だというのに、文維には艶めかしく見え、ドキリとする。
「じゃあ、何がいいのですか?」
ご機嫌を取るように文維が訊ねると、煜瑾は相談するように恭安楽の顔を見上げた。
「文維お兄さまに、煜瑾ちゃんの好きなのを教えて差し上げたら?」
「ん~、煜瑾は、イチゴがしゅき~。でも~、タマゴもしゅきなのでしゅ~」
「じゃあ、2つとも食べますか?」
文維が笑顔でそう言うと、パッと晴れやかな顔になり、煜瑾はニコニコして文維が差し出した、イチゴと玉子のサンドイッチをそれぞれ片手に1つずつ受け取って、満足そうにしていた。
「おかあしゃまは?おかあしゃまは、サンドイッチ、めし上がらないのでしゅか?」
「じゃあ、お母さまも、煜瑾ちゃんと一緒にいただくわ。お母さまはキュウリにするわね」
「うふふ」
幸せいっぱいの煜瑾だったが、その時寝室のドアが開いた。
「ちがうもん!」
そこには、仁王立ちになった小敏が、怖い顔をして煜瑾を睨みつけていた。
「あら、小敏、起きたのね?どうしたの、随分とご機嫌が悪いようだけど?」
「ちがうもん!安楽おばしゃまは、煜瑾のおかあしゃまじゃないもん!」
「!」
小敏の爆弾発言に、煜瑾の顔色が変わった。
「お、…おかあしゃま…」
見る見るうちに、大きな黒い瞳が潤んでくる。
「おかあしゃまは、煜瑾のおかあしゃまだもの!」
珍しく、大人しい煜瑾が大きな声で言い返した。
「ちがうもん!おばしゃまは、文維にいたんのおかあしゃまだもん!」
「…小敏のイジワル~」
そのまま、煜瑾は恭安楽の膝の上に顔を埋めて声を上げて泣き出した。
「あ~ん、あ~ん。おかあしゃまは~、煜瑾のおかあしゃまでしゅよね~。煜瑾は、おかあしゃまが大しゅきなのでしゅ~。あ~ん、あ~ん」
身を震わせて、激しく泣く煜瑾の姿に、恭安楽も胸を詰まらせる。
「ちがうもん!」
「…小敏、よしなさい」
さらに追い打ちを掛けようとする正直な甥を、恭安楽は静かに制止した。
「だって、ボク、まちがってないもん」
「だとしても、もうおよしなさい。煜瑾ちゃんがこれほどに泣いているのよ」
「だって…!」
母とも慕う大切な叔母や、大好きな従兄を煜瑾に独り占めされ、我慢できずに発した小敏の言葉だった。
「小敏」
決して大きな声ではないが、厳しい口調で恭安楽がもう一度嗜(たしなめ)た。
右手に恭安楽、左に文維を侍(はべ)らせて、子供用にひと口サイズにカットされたサンドイッチを、好きな物だけ選び、出来立てのバナナジュースに舌鼓を打っていた。
「はぁ~、おいしいでしゅね~」
穢れを知らない、清らかな笑顔で、煜瑾は恭安楽と文維の顔を見比べた。
「じゃあ、次は、このキュウリのサンドイッチはどうですか?」
文維が差し出すと、逃げるようにギュッと恭安楽にしがみ付いた。小さな煜瑾は緑色の食べ物が苦手なのだ。
「や~ん。キュウリはイヤでしゅ~」
甘えて、グリグリと顔を恭安楽に押し付け、煜瑾はチラリと文維を恨めし気に見た。それが、3歳児だというのに、文維には艶めかしく見え、ドキリとする。
「じゃあ、何がいいのですか?」
ご機嫌を取るように文維が訊ねると、煜瑾は相談するように恭安楽の顔を見上げた。
「文維お兄さまに、煜瑾ちゃんの好きなのを教えて差し上げたら?」
「ん~、煜瑾は、イチゴがしゅき~。でも~、タマゴもしゅきなのでしゅ~」
「じゃあ、2つとも食べますか?」
文維が笑顔でそう言うと、パッと晴れやかな顔になり、煜瑾はニコニコして文維が差し出した、イチゴと玉子のサンドイッチをそれぞれ片手に1つずつ受け取って、満足そうにしていた。
「おかあしゃまは?おかあしゃまは、サンドイッチ、めし上がらないのでしゅか?」
「じゃあ、お母さまも、煜瑾ちゃんと一緒にいただくわ。お母さまはキュウリにするわね」
「うふふ」
幸せいっぱいの煜瑾だったが、その時寝室のドアが開いた。
「ちがうもん!」
そこには、仁王立ちになった小敏が、怖い顔をして煜瑾を睨みつけていた。
「あら、小敏、起きたのね?どうしたの、随分とご機嫌が悪いようだけど?」
「ちがうもん!安楽おばしゃまは、煜瑾のおかあしゃまじゃないもん!」
「!」
小敏の爆弾発言に、煜瑾の顔色が変わった。
「お、…おかあしゃま…」
見る見るうちに、大きな黒い瞳が潤んでくる。
「おかあしゃまは、煜瑾のおかあしゃまだもの!」
珍しく、大人しい煜瑾が大きな声で言い返した。
「ちがうもん!おばしゃまは、文維にいたんのおかあしゃまだもん!」
「…小敏のイジワル~」
そのまま、煜瑾は恭安楽の膝の上に顔を埋めて声を上げて泣き出した。
「あ~ん、あ~ん。おかあしゃまは~、煜瑾のおかあしゃまでしゅよね~。煜瑾は、おかあしゃまが大しゅきなのでしゅ~。あ~ん、あ~ん」
身を震わせて、激しく泣く煜瑾の姿に、恭安楽も胸を詰まらせる。
「ちがうもん!」
「…小敏、よしなさい」
さらに追い打ちを掛けようとする正直な甥を、恭安楽は静かに制止した。
「だって、ボク、まちがってないもん」
「だとしても、もうおよしなさい。煜瑾ちゃんがこれほどに泣いているのよ」
「だって…!」
母とも慕う大切な叔母や、大好きな従兄を煜瑾に独り占めされ、我慢できずに発した小敏の言葉だった。
「小敏」
決して大きな声ではないが、厳しい口調で恭安楽がもう一度嗜(たしなめ)た。