ふたたび、文維くんのこいびと
家族そろっての朝食を終え、煜瑾と包教授はキッチンで後片付けをしながら、午後からの年夜飯作りの仕込みをしていた。
「白菜は、まず大きく縦に切って、それから横方向に切っていくんだよ」
「こうですか、おとうさま」
「そうそう。とても上手だね、煜瑾。あ、手を切らないように、よそ見をしないで」
「はい」
文維と小敏は、恭安楽の指示に従って、縁起の良い赤い切り絵や春聯を部屋中に飾っている。
「このお部屋はモダンで西洋風ではあるけれど、春節はやはり伝統的なほうがいいのよ」
「ボクは、剥がすのが面倒だと思うけど」
「まあ、なんてことを言うの、小敏!あくまでも縁起物!みんなが幸せに暮らすために必要な物ですよ」
そんなやり取りを聞きながら、文維は黙々と作業を続ける。不要な雑誌などを片付け、場所を作っては赤い飾りを貼ったり、ぶら下げたり、母の好むように仕上げていく。これで家庭内に安寧が訪れるのなら易いものだ。
「文維が頑張ってくれたから、なんとか新年を迎えられる雰囲気になったわ」
「ボクだって頑張ったよ?」
「小敏は、口先だけね」
「もう、叔母さまにはかなわないよ~」
仲の良い2人の掛け合いに、文維も穏やかに笑っていた。
この温かで家庭的な雰囲気こそ、春節らしいと思った。
「お疲れ様でした!お茶の用意が出来ましたよ」
そこへ、煜瑾が香りのよいジャスミンティーを運んできた。
「おかあさまのジンジャービスケットには、ジャスミンティーも合いますよね」
煜瑾の後ろからは、包教授が愛妻手作りの、甘さ控えめなフィンガービスケットを運んで来る。
「あら、煜瑾ちゃんと小敏には、シュークリームもあるはずよ」
甘い物が苦手な包親子が不満な恭安楽は、わざわざお菓子好きの煜瑾と小敏のために腕をふるって来たのだ。
「ボク、シュークリーム取って来るよ!」
それまでは、やる気のなさそうな小敏が、シュークリームと聞いて急にキビキビと動き出した。
お茶とお菓子を並べ、テレビを点けて、年末特番などを、口々に批評を始めた頃、煜瑾のスマホが鳴った。
「兄からです…」
煜瑾はそう言ってスマホを取り、テレビを観ている家族の邪魔にならないよう、キッチンのほうへ向かった。
除夕の過年は包家のみんなと過ごすことは、すでに兄にも知らせてある。唐家の除夕に参加しろという電話では無いはずだ。では一体どんな用事で?煜瑾は首を傾げながら通話ボタンを押した。
***
「どうしました?」
キッチンから戻った煜瑾の様子に気付いて、文維がいち早く声を掛ける。
煜瑾の表情は困ったような、戸惑っているような、複雑なものだった。
「どうしたの、煜瑾?お兄様に何か言われた?」
義侠心の強い小敏が、煜瑾が何か無理難題を突き付けられたのではないかと心配していた。
「それが…」
煜瑾は文維の招きに応じて、リビングのお気に入りのソファに並んで座った。
「それが、兄が明日の新年の夜のお食事に皆さんをご招待したいと…」
「あら!ステキ!」
唐家の年夜飯となれば、どこのレストランよりも豪華で美味しい物がいただけると分かっている恭安楽は、無邪気に声を上げた。
「でも…おとうさまのお料理があるからと言ったら…」
ちょっと寂しそうにしていた包教授が、意味ありげな煜瑾の言葉に顔を上げる。
「むしろ、それをごちそうしていただきたいと…」
「え?」
意外な展開に、いつも冷静な包教授も驚いた。
「白菜は、まず大きく縦に切って、それから横方向に切っていくんだよ」
「こうですか、おとうさま」
「そうそう。とても上手だね、煜瑾。あ、手を切らないように、よそ見をしないで」
「はい」
文維と小敏は、恭安楽の指示に従って、縁起の良い赤い切り絵や春聯を部屋中に飾っている。
「このお部屋はモダンで西洋風ではあるけれど、春節はやはり伝統的なほうがいいのよ」
「ボクは、剥がすのが面倒だと思うけど」
「まあ、なんてことを言うの、小敏!あくまでも縁起物!みんなが幸せに暮らすために必要な物ですよ」
そんなやり取りを聞きながら、文維は黙々と作業を続ける。不要な雑誌などを片付け、場所を作っては赤い飾りを貼ったり、ぶら下げたり、母の好むように仕上げていく。これで家庭内に安寧が訪れるのなら易いものだ。
「文維が頑張ってくれたから、なんとか新年を迎えられる雰囲気になったわ」
「ボクだって頑張ったよ?」
「小敏は、口先だけね」
「もう、叔母さまにはかなわないよ~」
仲の良い2人の掛け合いに、文維も穏やかに笑っていた。
この温かで家庭的な雰囲気こそ、春節らしいと思った。
「お疲れ様でした!お茶の用意が出来ましたよ」
そこへ、煜瑾が香りのよいジャスミンティーを運んできた。
「おかあさまのジンジャービスケットには、ジャスミンティーも合いますよね」
煜瑾の後ろからは、包教授が愛妻手作りの、甘さ控えめなフィンガービスケットを運んで来る。
「あら、煜瑾ちゃんと小敏には、シュークリームもあるはずよ」
甘い物が苦手な包親子が不満な恭安楽は、わざわざお菓子好きの煜瑾と小敏のために腕をふるって来たのだ。
「ボク、シュークリーム取って来るよ!」
それまでは、やる気のなさそうな小敏が、シュークリームと聞いて急にキビキビと動き出した。
お茶とお菓子を並べ、テレビを点けて、年末特番などを、口々に批評を始めた頃、煜瑾のスマホが鳴った。
「兄からです…」
煜瑾はそう言ってスマホを取り、テレビを観ている家族の邪魔にならないよう、キッチンのほうへ向かった。
除夕の過年は包家のみんなと過ごすことは、すでに兄にも知らせてある。唐家の除夕に参加しろという電話では無いはずだ。では一体どんな用事で?煜瑾は首を傾げながら通話ボタンを押した。
***
「どうしました?」
キッチンから戻った煜瑾の様子に気付いて、文維がいち早く声を掛ける。
煜瑾の表情は困ったような、戸惑っているような、複雑なものだった。
「どうしたの、煜瑾?お兄様に何か言われた?」
義侠心の強い小敏が、煜瑾が何か無理難題を突き付けられたのではないかと心配していた。
「それが…」
煜瑾は文維の招きに応じて、リビングのお気に入りのソファに並んで座った。
「それが、兄が明日の新年の夜のお食事に皆さんをご招待したいと…」
「あら!ステキ!」
唐家の年夜飯となれば、どこのレストランよりも豪華で美味しい物がいただけると分かっている恭安楽は、無邪気に声を上げた。
「でも…おとうさまのお料理があるからと言ったら…」
ちょっと寂しそうにしていた包教授が、意味ありげな煜瑾の言葉に顔を上げる。
「むしろ、それをごちそうしていただきたいと…」
「え?」
意外な展開に、いつも冷静な包教授も驚いた。