ふたたび、文維くんのこいびと
「煜瑾、こちらへ来なさい」
寝室から飛び出した煜瑾に、キッチンから包教授が声を掛けた。
「はい、おとうさま」
いそいそと煜瑾がキッチンに駆け付けると、そこは甘い匂いに包まれていた。
「あ…フレンチトースト…」
煜瑾は、自分が作った物とはまた違う匂いを胸いっぱいに吸いこんだ。
「ん~、美味しそうな香り~」
嬉しそうにそう言ってキッチンに続くダイニングに目をやると、そこでは恭安楽が煜瑾に手を振っている。
「おとうさまが、お作りになったのですか?」
「煜瑾、ほら、これをひと口食べてごらん?」
人を疑うことを知らない煜瑾は、義父に言われて素直に口を開いた。
「熱いから、気をつけてね」
そう言って包教授が煜瑾の口に運んだのは、焼き立てのフレンチトーストだ。それを口に入れ、ひと口ふた口噛んだところで、煜瑾はハッと気が付いた。
「これ…、文維が作ってくれるフレンチトーストと同じ味です!」
「やはりね。文維は私が教えった作り方を覚えていたんだね」
「文維のフレンチトーストは、おとうさま直伝だったのですね」
煜瑾は感激して、もっと欲しそうな顔をしてしまう。それを見て、包教授もすぐに察してお皿ごと煜瑾に渡した。
「あちらで、おかあさまと一緒に食べて来なさい。それから、もしよければ私のレシピを試してみますか?」
「え!お父さまのレシピを教えていただけるのですか」
「もちろん。文維教えたのと同じものを煜瑾にも教えておきますね」
義父の言葉に、煜瑾は晴れやかな笑みを浮かべ嬉しそうに頷いた。
「さあ、先に味見を…」
言いかけた包教授は、ちょうどその煜瑾の後ろからキッチンに入ってきた息子に気付いた。
「おはようございます、お父さま」
「おはよう、文維」
その声に振り返った煜瑾は、輝くばかりの笑顔だった。
「どうしたのですか、煜瑾。ずいぶんと嬉しそうですね」
「あのね、文維。おとうさまが、私にフレンチトーストのレシピを教えて下さるって!」
逸る気持ちが抑えきれない様子の煜瑾に、文維の表情も緩む。
「無理しないでいいのですよ」
優しくそう言う文維に、煜瑾は大きく首を横に振った。
「いいえ。文維と同じ味のフレンチトーストが作れるようになりたいのです!」
期待いっぱいの煜瑾に、文維はそれ以上何も言うことは無かった。
「楽しみにしています」
「はい!」
幸せそうな2人の「息子」に、包教授も満足そうだった。
「煜瑾、文維に作ったフレンチトーストを温めてあげなさい」
「そうでした!」
煜瑾は慌てて自分が作ったフレンチトーストにラップを掛けようとしたが、包教授がそれを止めた。
「電子レンジで温めるよりも、バターで焼き直した方が、風味が上がります」
「そうなのですね。ありがとうございます、おとうさま」
そして煜瑾は冷蔵庫からバターを取り出し、包教授に見守られながら、自分がネットのレシピで作ったフレンチトーストを温め直した。
「これは、玉子と砂糖と牛乳で作ったのですか?」
「はい。一番簡単なレシピで検索しました」
まさか父と煜瑾が料理の話題で盛り上がる日が来るとは、文維は想像もしていなかった。
けれど、それは煜瑾がいつも努力を惜しまないからだ、と文維は気付く。
名門・唐家の「深窓の王子」が家事をする必要など無かった。けれど「王子」としての暮らしよりも、文維と生きていくことを選んだ時から、煜瑾は「普通の暮らし」に必要な事を身に着けたいと、日々努力してきたのだ。
何よりも文維の負担にならないように、文維のために。
これもまた煜瑾の愛情表現だと思うと、文維は喜びを抑えきれない。そんな煜瑾を幸せにしたいと改めて思う。
「文維、私の作った朝食です。召し上がって下さいね」
差し出されたトレイよりも、添えられた煜瑾の笑顔に満たされると思う文維だった。
寝室から飛び出した煜瑾に、キッチンから包教授が声を掛けた。
「はい、おとうさま」
いそいそと煜瑾がキッチンに駆け付けると、そこは甘い匂いに包まれていた。
「あ…フレンチトースト…」
煜瑾は、自分が作った物とはまた違う匂いを胸いっぱいに吸いこんだ。
「ん~、美味しそうな香り~」
嬉しそうにそう言ってキッチンに続くダイニングに目をやると、そこでは恭安楽が煜瑾に手を振っている。
「おとうさまが、お作りになったのですか?」
「煜瑾、ほら、これをひと口食べてごらん?」
人を疑うことを知らない煜瑾は、義父に言われて素直に口を開いた。
「熱いから、気をつけてね」
そう言って包教授が煜瑾の口に運んだのは、焼き立てのフレンチトーストだ。それを口に入れ、ひと口ふた口噛んだところで、煜瑾はハッと気が付いた。
「これ…、文維が作ってくれるフレンチトーストと同じ味です!」
「やはりね。文維は私が教えった作り方を覚えていたんだね」
「文維のフレンチトーストは、おとうさま直伝だったのですね」
煜瑾は感激して、もっと欲しそうな顔をしてしまう。それを見て、包教授もすぐに察してお皿ごと煜瑾に渡した。
「あちらで、おかあさまと一緒に食べて来なさい。それから、もしよければ私のレシピを試してみますか?」
「え!お父さまのレシピを教えていただけるのですか」
「もちろん。文維教えたのと同じものを煜瑾にも教えておきますね」
義父の言葉に、煜瑾は晴れやかな笑みを浮かべ嬉しそうに頷いた。
「さあ、先に味見を…」
言いかけた包教授は、ちょうどその煜瑾の後ろからキッチンに入ってきた息子に気付いた。
「おはようございます、お父さま」
「おはよう、文維」
その声に振り返った煜瑾は、輝くばかりの笑顔だった。
「どうしたのですか、煜瑾。ずいぶんと嬉しそうですね」
「あのね、文維。おとうさまが、私にフレンチトーストのレシピを教えて下さるって!」
逸る気持ちが抑えきれない様子の煜瑾に、文維の表情も緩む。
「無理しないでいいのですよ」
優しくそう言う文維に、煜瑾は大きく首を横に振った。
「いいえ。文維と同じ味のフレンチトーストが作れるようになりたいのです!」
期待いっぱいの煜瑾に、文維はそれ以上何も言うことは無かった。
「楽しみにしています」
「はい!」
幸せそうな2人の「息子」に、包教授も満足そうだった。
「煜瑾、文維に作ったフレンチトーストを温めてあげなさい」
「そうでした!」
煜瑾は慌てて自分が作ったフレンチトーストにラップを掛けようとしたが、包教授がそれを止めた。
「電子レンジで温めるよりも、バターで焼き直した方が、風味が上がります」
「そうなのですね。ありがとうございます、おとうさま」
そして煜瑾は冷蔵庫からバターを取り出し、包教授に見守られながら、自分がネットのレシピで作ったフレンチトーストを温め直した。
「これは、玉子と砂糖と牛乳で作ったのですか?」
「はい。一番簡単なレシピで検索しました」
まさか父と煜瑾が料理の話題で盛り上がる日が来るとは、文維は想像もしていなかった。
けれど、それは煜瑾がいつも努力を惜しまないからだ、と文維は気付く。
名門・唐家の「深窓の王子」が家事をする必要など無かった。けれど「王子」としての暮らしよりも、文維と生きていくことを選んだ時から、煜瑾は「普通の暮らし」に必要な事を身に着けたいと、日々努力してきたのだ。
何よりも文維の負担にならないように、文維のために。
これもまた煜瑾の愛情表現だと思うと、文維は喜びを抑えきれない。そんな煜瑾を幸せにしたいと改めて思う。
「文維、私の作った朝食です。召し上がって下さいね」
差し出されたトレイよりも、添えられた煜瑾の笑顔に満たされると思う文維だった。