ふたたび、文維くんのこいびと
睦まじく、幸せそうに笑顔を交わし、見つめ合う煜瑾と文維に、唐煜瓔は悲しそうに眉を寄せた。2人の傍には、明るく微笑む恭安楽も寄り添っている。
まさに絵に描いたような家族の幸福がそこにあった。その中心にあるのは、天使の笑顔を浮かべる、「唐家の至宝」である唐煜瑾だ。
(煜瑾が幸せならば…それでいい。たとえ、私は1人であっても、生きていける…)
煜瑾の寝台の上に取り残された唐煜瓔は、自分にそう言い聞かせて、諦めたように目を閉じた。
「1人じゃないよ、:瓔瓔(インイン)。僕は、いつも君の傍で見守っている。君に触れることはできないけれど、君だけを見ているよ」
目を閉じた唐煜瓔の瞼の裏には、ハッキリと笑顔の羽牧が見えた。
けれど唐煜瓔は薄く皮肉な笑みを浮かべただけで、首を横に振った。
(私は羽牧とは違う。…まだ生きているのだ。これから愛する人と巡り合うこともありうる…)
(そうだね、瓔瓔。君は、今は1人でも大丈夫。いつか君を幸せにしてくれる人が現れる。それを信じられるだけ、前向きなら、僕はもう必要ないね)
羽牧はクスクスと笑いながらそう言った。その笑顔は、屈託がなく、煜瑾の親友である羽小敏によく似た人好きのする愛らしいものだった。
(でもね、羽牧兄さま。あなたは私が初めて好きになった人です。決して忘れはしません)
(それで十分だよ。僕も、生意気で、小賢しくて、友達も作れないほど不器用で、それでいて優しくて、美しい君が、大好きだった…)
唐煜瓔は、13歳の子供に戻って、無邪気に笑った。
(さあ、もうおやすみ、瓔瓔。目が覚めたら、もう春節だ。新しい年に、幸せが訪れますように…)
(ん…羽牧兄さま…おやすみ。そして、:新年快楽(良い、お年を)…)
そして、唐煜瓔は初恋の人・羽牧に見守られながら、穏やかに眠りに落ちて行った。
***
「わ~!しゅてき~。これ、みんな煜瑾が食べていいのでしゅか?」
煜瑾は、ダイニングテーブルに並んだ、イチゴのデザートに、その澄んだ黒い瞳を輝かせていた。
「そうですよ。全部、煜瑾ちゃんのためだけに用意されたものですよ」
にこやかに恭安楽が言うと、煜瑾はさらにキラキラした笑顔を周囲に振りまいた。
その清らかさ、愛らしさに、そこに居たものは誰もが魅了され、癒され、幸せな気持ちになることが出来た。
「煜瑾、お腹を壊すといけないので、全部の種類を一口ずついただきましょう」
医師でもある文維が言うと、煜瑾は素直に頷いた。
「煜瑾坊ちゃま、アイスは先にお召し上がりになりませんと、溶けてしまいますよ」
「は~い」
茅執事のアドバイスに、煜瑾はまず、生のイチゴとホイップクリームに飾られた、イチゴのアイスクリームサンデーにスプーンを伸ばした。
「あ~ん」
大きなお口を開けてアイスを食べる姿が、子供らしく、その場にいる大人たちの頬は緩みっぱなしだ。
「ん~。おいしいでしゅ~。煜瑾は、とっても『しわわしぇ』でしゅ」
「まあ、良かったこと。次は、お母さまが作ったワッフルもどうぞ」
そう言って恭安楽が差し出したデザート皿には、カリッと焼いたハート型のワッフルの間にピンク色のクリームが挟まった、ワッフルサンドが乗っていた。
子供用のフォークでは上手に切れない煜瑾に代わって、文維がナイフとフォークを使って一口サイズに切り分けた。
そしてワクワクした顔で待つ煜瑾の前に、そのフォークに刺したワッフルを差し出した。
「はい、あ~ん、して下さい」
「あ~ん」
文維に言われて、ニコニコしながら大きなお口を開き、煜瑾はワッフルを食べた。溢れんばかりのイチゴクリームが、煜瑾の口の端に残ってしまう。
それを煜瑾がペロリと舌で舐め取ると、その可愛らしさに、誰もが心が和むのを感じられた。
まさに絵に描いたような家族の幸福がそこにあった。その中心にあるのは、天使の笑顔を浮かべる、「唐家の至宝」である唐煜瑾だ。
(煜瑾が幸せならば…それでいい。たとえ、私は1人であっても、生きていける…)
煜瑾の寝台の上に取り残された唐煜瓔は、自分にそう言い聞かせて、諦めたように目を閉じた。
「1人じゃないよ、:瓔瓔(インイン)。僕は、いつも君の傍で見守っている。君に触れることはできないけれど、君だけを見ているよ」
目を閉じた唐煜瓔の瞼の裏には、ハッキリと笑顔の羽牧が見えた。
けれど唐煜瓔は薄く皮肉な笑みを浮かべただけで、首を横に振った。
(私は羽牧とは違う。…まだ生きているのだ。これから愛する人と巡り合うこともありうる…)
(そうだね、瓔瓔。君は、今は1人でも大丈夫。いつか君を幸せにしてくれる人が現れる。それを信じられるだけ、前向きなら、僕はもう必要ないね)
羽牧はクスクスと笑いながらそう言った。その笑顔は、屈託がなく、煜瑾の親友である羽小敏によく似た人好きのする愛らしいものだった。
(でもね、羽牧兄さま。あなたは私が初めて好きになった人です。決して忘れはしません)
(それで十分だよ。僕も、生意気で、小賢しくて、友達も作れないほど不器用で、それでいて優しくて、美しい君が、大好きだった…)
唐煜瓔は、13歳の子供に戻って、無邪気に笑った。
(さあ、もうおやすみ、瓔瓔。目が覚めたら、もう春節だ。新しい年に、幸せが訪れますように…)
(ん…羽牧兄さま…おやすみ。そして、:新年快楽(良い、お年を)…)
そして、唐煜瓔は初恋の人・羽牧に見守られながら、穏やかに眠りに落ちて行った。
***
「わ~!しゅてき~。これ、みんな煜瑾が食べていいのでしゅか?」
煜瑾は、ダイニングテーブルに並んだ、イチゴのデザートに、その澄んだ黒い瞳を輝かせていた。
「そうですよ。全部、煜瑾ちゃんのためだけに用意されたものですよ」
にこやかに恭安楽が言うと、煜瑾はさらにキラキラした笑顔を周囲に振りまいた。
その清らかさ、愛らしさに、そこに居たものは誰もが魅了され、癒され、幸せな気持ちになることが出来た。
「煜瑾、お腹を壊すといけないので、全部の種類を一口ずついただきましょう」
医師でもある文維が言うと、煜瑾は素直に頷いた。
「煜瑾坊ちゃま、アイスは先にお召し上がりになりませんと、溶けてしまいますよ」
「は~い」
茅執事のアドバイスに、煜瑾はまず、生のイチゴとホイップクリームに飾られた、イチゴのアイスクリームサンデーにスプーンを伸ばした。
「あ~ん」
大きなお口を開けてアイスを食べる姿が、子供らしく、その場にいる大人たちの頬は緩みっぱなしだ。
「ん~。おいしいでしゅ~。煜瑾は、とっても『しわわしぇ』でしゅ」
「まあ、良かったこと。次は、お母さまが作ったワッフルもどうぞ」
そう言って恭安楽が差し出したデザート皿には、カリッと焼いたハート型のワッフルの間にピンク色のクリームが挟まった、ワッフルサンドが乗っていた。
子供用のフォークでは上手に切れない煜瑾に代わって、文維がナイフとフォークを使って一口サイズに切り分けた。
そしてワクワクした顔で待つ煜瑾の前に、そのフォークに刺したワッフルを差し出した。
「はい、あ~ん、して下さい」
「あ~ん」
文維に言われて、ニコニコしながら大きなお口を開き、煜瑾はワッフルを食べた。溢れんばかりのイチゴクリームが、煜瑾の口の端に残ってしまう。
それを煜瑾がペロリと舌で舐め取ると、その可愛らしさに、誰もが心が和むのを感じられた。