ふたたび、文維くんのこいびと
「おとうしゃま~」
「おじしゃま~」
包家に戻った子供たちは、嬉々として包伯言の姿を求めて駆け込んだ。
「ああ、お帰り。イイものは買ってもらえたかね?」
包教授は腰をかがめ、両手に煜瑾と小敏を抱き締めた。
「あのね、煜瑾はイチゴをたくさん買っていただいたの~」
「ボクはね~、こんな大きなパンだよ~。ボクひとりで食べるんだ~」
そう言う2人は、それぞれ手首に赤いウサギのぬいぐるみをぶら下げていた。
「お邪魔します、包教授」
笑顔の玄紀を抱きながら、申軒撰が現れると、包教授は温和な態度で頷いた。恭安楽が、申家の親子をランチに招待したと事前に連絡しておいたからだ。
「見て~、子供たちのウサギのぬいぐるみ、可愛いでしょう?申さんが買って下さったのよ~」
恭安楽がはしゃぐように言うと、包教授は3人の子供たちのそれぞれの手に新年の干支であるウサギの真っ赤なぬいぐるみがぶら下がっているのを確かめた。真っ赤な干支のぬいぐるみは、春節らしい縁起物だ。
「みんなお揃いでいいね。申さん、ありがとうございます」
包教授が褒めると、子供たちはますます笑顔になり、煜瑾は父親に抱かれた玄紀を振り返り、それから大好きな文維を見た。
「おにいちゃま~、ほら~」
嬉しそうにぬいぐるみを揺らして見せびらかす煜瑾が稚くて、文維も頬が緩んだ。
「いいですね、みんな一緒だ」
文維にも褒められ、煜瑾はこの上なく満足そうにしている。
「おじしゃま~、ボク、お腹しゅいた~」
小敏の一言で、大人たちも笑う。
「さあ、ありきたりの家庭料理ですが、除夕の年夜飯です。味見をして下さい」
包教授はそう言って、玄紀を抱いたまま勧められたダイニングルームに向かった。
「さあ、煜瑾ちゃんと小敏は、文維お兄さまとお手々を洗ってらっしゃい。お父さまとお母さまは、荷物をキッチンに運びますからね」
「「は~い」」
「申さん、今、お茶の用意をするからお待ちになってね」
「お気遣い無く」
申軒撰が玄紀を抱いたまま答えた。
「パパ~。まんま~、玄紀のまんま~」
急に玄紀が声を上げた。
「ああ、もうすぐお昼ご飯だからね。もう少し待ちなさい」
「パパ~」
煜瑾と小敏を連れて戻った文維は、そんな申親子を観察することを忘れなかった。
玄紀は無邪気に父である申軒撰に甘えている。それをまた、嬉しそうにあやしている申軒撰が、文維には新鮮すぎて違和感がある。
(本物の玄紀は、この世界でも大人としてどこかに存在している。それは、先ほど電話で話したのだから、間違いないだろう。では、この申家の親子はなんなんだ?)
ジッと見つめている文維に気付かないのか、玄紀親子は仲良く食事を待っている。
「パパ~立ったして~」
「高い高い、して欲しいのかい」
申氏は玄紀を抱いて立ち上がり、息子を持ち上げては楽しませた。
「ほ~ら、高い高~い」
「あははっ!パパ~、高い~」
その様子に、文維はなぜか胸が痛んだ。
(これが、子供との時間を持てなかった申家のおじ様の夢だとしても、幼い頃に十分に父親に甘えられなかった玄紀の夢だとしても、切ないな…)
もはや取り戻せない時間を、せめて夢の中だけでも体験したいという2人の後悔を思い、文維は複雑な気持ちだ。
申軒撰が、契約でがんじがらめな現実のビジネスの世界から逃避して、愛くるしい幼年時代の息子と過ごしたいという気持ちが、文維にも分からなくはない。
「パパ~、もっと~」
「いいとも、ほら、高~い、高~い」
恐らくは、申軒撰がこの夢の世界における「招かれざる客」だと、文維は思う。日常的にビジネスに追われる申軒撰は、睡眠もロクに取れないのだろう。それが世界中の市場が停止する年末年始に、少し休みが取れて、夢を見るほど深く眠れたのかもしれない。
久しぶりに見た、幸せな夢に、申軒撰はハマってしまい、これが煜瑾の世界とは知らずに自分の夢だとして謳歌しているのではないだろうか。
「さあ、お茶と、子どもたちにはお菓子もありますよ」
恭安楽の明るい声に、文維はハッと我に返った。
「おじしゃま~」
包家に戻った子供たちは、嬉々として包伯言の姿を求めて駆け込んだ。
「ああ、お帰り。イイものは買ってもらえたかね?」
包教授は腰をかがめ、両手に煜瑾と小敏を抱き締めた。
「あのね、煜瑾はイチゴをたくさん買っていただいたの~」
「ボクはね~、こんな大きなパンだよ~。ボクひとりで食べるんだ~」
そう言う2人は、それぞれ手首に赤いウサギのぬいぐるみをぶら下げていた。
「お邪魔します、包教授」
笑顔の玄紀を抱きながら、申軒撰が現れると、包教授は温和な態度で頷いた。恭安楽が、申家の親子をランチに招待したと事前に連絡しておいたからだ。
「見て~、子供たちのウサギのぬいぐるみ、可愛いでしょう?申さんが買って下さったのよ~」
恭安楽がはしゃぐように言うと、包教授は3人の子供たちのそれぞれの手に新年の干支であるウサギの真っ赤なぬいぐるみがぶら下がっているのを確かめた。真っ赤な干支のぬいぐるみは、春節らしい縁起物だ。
「みんなお揃いでいいね。申さん、ありがとうございます」
包教授が褒めると、子供たちはますます笑顔になり、煜瑾は父親に抱かれた玄紀を振り返り、それから大好きな文維を見た。
「おにいちゃま~、ほら~」
嬉しそうにぬいぐるみを揺らして見せびらかす煜瑾が稚くて、文維も頬が緩んだ。
「いいですね、みんな一緒だ」
文維にも褒められ、煜瑾はこの上なく満足そうにしている。
「おじしゃま~、ボク、お腹しゅいた~」
小敏の一言で、大人たちも笑う。
「さあ、ありきたりの家庭料理ですが、除夕の年夜飯です。味見をして下さい」
包教授はそう言って、玄紀を抱いたまま勧められたダイニングルームに向かった。
「さあ、煜瑾ちゃんと小敏は、文維お兄さまとお手々を洗ってらっしゃい。お父さまとお母さまは、荷物をキッチンに運びますからね」
「「は~い」」
「申さん、今、お茶の用意をするからお待ちになってね」
「お気遣い無く」
申軒撰が玄紀を抱いたまま答えた。
「パパ~。まんま~、玄紀のまんま~」
急に玄紀が声を上げた。
「ああ、もうすぐお昼ご飯だからね。もう少し待ちなさい」
「パパ~」
煜瑾と小敏を連れて戻った文維は、そんな申親子を観察することを忘れなかった。
玄紀は無邪気に父である申軒撰に甘えている。それをまた、嬉しそうにあやしている申軒撰が、文維には新鮮すぎて違和感がある。
(本物の玄紀は、この世界でも大人としてどこかに存在している。それは、先ほど電話で話したのだから、間違いないだろう。では、この申家の親子はなんなんだ?)
ジッと見つめている文維に気付かないのか、玄紀親子は仲良く食事を待っている。
「パパ~立ったして~」
「高い高い、して欲しいのかい」
申氏は玄紀を抱いて立ち上がり、息子を持ち上げては楽しませた。
「ほ~ら、高い高~い」
「あははっ!パパ~、高い~」
その様子に、文維はなぜか胸が痛んだ。
(これが、子供との時間を持てなかった申家のおじ様の夢だとしても、幼い頃に十分に父親に甘えられなかった玄紀の夢だとしても、切ないな…)
もはや取り戻せない時間を、せめて夢の中だけでも体験したいという2人の後悔を思い、文維は複雑な気持ちだ。
申軒撰が、契約でがんじがらめな現実のビジネスの世界から逃避して、愛くるしい幼年時代の息子と過ごしたいという気持ちが、文維にも分からなくはない。
「パパ~、もっと~」
「いいとも、ほら、高~い、高~い」
恐らくは、申軒撰がこの夢の世界における「招かれざる客」だと、文維は思う。日常的にビジネスに追われる申軒撰は、睡眠もロクに取れないのだろう。それが世界中の市場が停止する年末年始に、少し休みが取れて、夢を見るほど深く眠れたのかもしれない。
久しぶりに見た、幸せな夢に、申軒撰はハマってしまい、これが煜瑾の世界とは知らずに自分の夢だとして謳歌しているのではないだろうか。
「さあ、お茶と、子どもたちにはお菓子もありますよ」
恭安楽の明るい声に、文維はハッと我に返った。