ふたたび、文維くんのこいびと
朝食を終え、子供たちが恭安楽とお出掛けの仕度をしている間に、文維は自分のスマホを確認した。やはり、申玄紀の実家の電話番号は入っていない。落ち着こうと一息ついてから、文維は玄紀のスマホに電話した。
「はい、なんですか、文維?」
電話に出たのは、大人の申玄紀だった。だが、文維はここで緩く眉を寄せる。玄紀が先ほどまでの夢の支配者であったのなら、すでに目覚めて、この世界にはいないはずなのだ。
「いや、今から除夕の買物に行くんだけれど、煜瑾と小敏も一緒だし、君も一緒にどうかと思って…」
「ああ、残念ですけど、私はこれから実家へ両親に会いに戻るのです。たまにはそれらしいこともしておかないと」
なるほど、と文維は思う。
恐らく玄紀もまた、文維たちと同様に現実では眠っており、煜瑾の夢の中で繋がっているのだろう。だが、煜瑾に取って代わろうという野心はない。最初に子供として現れた玄紀も、きっと煜瑾が良かれと思って迎えた姿なのだ。
そして、先ほど文維が電話で話した玄紀こそが、今話している玄紀だ。
先ほど、幼児の玄紀の姿を借りた「誰か」こそ、煜瑾の夢を阻み、文維たちの現実への目覚めを妨げる「招かれざる者」に違いない。
しかし…、今の文維にはそれが何者なのか、まだ分からずにいた。
「じゃあ、また今度にでも。:除夕快楽(良いお年を)」
「:除夕快楽(良いお年を)、文維」
電話を切って、振り返ると、そこには期待を込めた眼差しで文維を見あげる煜瑾と小敏がいた。
「文維おにいちゃまのお車で、お買い物に行くのでしょう?」
「早く~。ボク、文維にいたんのお隣だよ~」
小敏は意気揚々と助手席を指定した。
煜瑾はちょっと迷っているようだ。文維の隣にも座りたいけれど、リアシートの恭安楽のお膝の上も捨てがたいのだ。
文維は子供たちに優しく微笑みながら、母の様子もうかがった。
「ねえ文維。春聯が貼っていないのはウチだけなのよ。出掛ける前に、これだけはお願い」
「分かりました。さあ、これを玄関に貼ったら、お出掛けですよ」
文維が声を掛けると、子供たちは大はしゃぎで玄関に向かう。母から、受け取った春聯を手に、文維は玄関のドアの前に立った。
父の包教授が書いた、達筆の春聯を飾り、子供たちも感心したように見ている。
「さあ、これで安心ね。さあ、出掛けましょう」
「わ~い」「は~い」
文維は、子供たちと一緒に買い物に行くことで、楽しい除夕を心から楽しんでいる自分に気付いた。
大型スーパーに着くと、小さな煜瑾は初めてなのか、物珍しそうにキョロキョロしながらも、どこか不安で恭安楽にしがみ付いている。逆に小敏は好奇心に任せて、すぐに1人でどこかに行ってしまいそうになり、文維に捕まっては不服そうにしていた。
結局、小さな2人は2台のカートに乗せられ、小敏は文維に、煜瑾は恭安楽に押されることになった。
「文維にいたん、アレ買って~」
「見たものを片っ端から欲しがるんじゃありません」
「煜瑾ちゃんの欲しいものを、1つだけ買ってあげるわね」
「ほんと~でしゅか~?わ~、ひとちゅだけ、買っていただくの~」
好奇心いっぱいで衝動的に物を欲しがる小敏に、1つだけ買ってもらえるという約束を取り付けただけでも嬉しい煜瑾だった。どちらも子供らしい行動で、無邪気で愛らしい。
それに加えて、この子たちの見目麗しさが際立っていた。
「まあ、なんてカワイイの」「可愛らしいお子さんね」「カワイイお子さんで羨ましい」
通りすがりの買い物客が、振り返るようにして文維や恭安楽に声を掛けた。
「本当に、可愛らしくて、賢そうな子供たちだ」
その時、声を掛けてきた男性に、文維は驚いた。
「はい、なんですか、文維?」
電話に出たのは、大人の申玄紀だった。だが、文維はここで緩く眉を寄せる。玄紀が先ほどまでの夢の支配者であったのなら、すでに目覚めて、この世界にはいないはずなのだ。
「いや、今から除夕の買物に行くんだけれど、煜瑾と小敏も一緒だし、君も一緒にどうかと思って…」
「ああ、残念ですけど、私はこれから実家へ両親に会いに戻るのです。たまにはそれらしいこともしておかないと」
なるほど、と文維は思う。
恐らく玄紀もまた、文維たちと同様に現実では眠っており、煜瑾の夢の中で繋がっているのだろう。だが、煜瑾に取って代わろうという野心はない。最初に子供として現れた玄紀も、きっと煜瑾が良かれと思って迎えた姿なのだ。
そして、先ほど文維が電話で話した玄紀こそが、今話している玄紀だ。
先ほど、幼児の玄紀の姿を借りた「誰か」こそ、煜瑾の夢を阻み、文維たちの現実への目覚めを妨げる「招かれざる者」に違いない。
しかし…、今の文維にはそれが何者なのか、まだ分からずにいた。
「じゃあ、また今度にでも。:除夕快楽(良いお年を)」
「:除夕快楽(良いお年を)、文維」
電話を切って、振り返ると、そこには期待を込めた眼差しで文維を見あげる煜瑾と小敏がいた。
「文維おにいちゃまのお車で、お買い物に行くのでしょう?」
「早く~。ボク、文維にいたんのお隣だよ~」
小敏は意気揚々と助手席を指定した。
煜瑾はちょっと迷っているようだ。文維の隣にも座りたいけれど、リアシートの恭安楽のお膝の上も捨てがたいのだ。
文維は子供たちに優しく微笑みながら、母の様子もうかがった。
「ねえ文維。春聯が貼っていないのはウチだけなのよ。出掛ける前に、これだけはお願い」
「分かりました。さあ、これを玄関に貼ったら、お出掛けですよ」
文維が声を掛けると、子供たちは大はしゃぎで玄関に向かう。母から、受け取った春聯を手に、文維は玄関のドアの前に立った。
父の包教授が書いた、達筆の春聯を飾り、子供たちも感心したように見ている。
「さあ、これで安心ね。さあ、出掛けましょう」
「わ~い」「は~い」
文維は、子供たちと一緒に買い物に行くことで、楽しい除夕を心から楽しんでいる自分に気付いた。
大型スーパーに着くと、小さな煜瑾は初めてなのか、物珍しそうにキョロキョロしながらも、どこか不安で恭安楽にしがみ付いている。逆に小敏は好奇心に任せて、すぐに1人でどこかに行ってしまいそうになり、文維に捕まっては不服そうにしていた。
結局、小さな2人は2台のカートに乗せられ、小敏は文維に、煜瑾は恭安楽に押されることになった。
「文維にいたん、アレ買って~」
「見たものを片っ端から欲しがるんじゃありません」
「煜瑾ちゃんの欲しいものを、1つだけ買ってあげるわね」
「ほんと~でしゅか~?わ~、ひとちゅだけ、買っていただくの~」
好奇心いっぱいで衝動的に物を欲しがる小敏に、1つだけ買ってもらえるという約束を取り付けただけでも嬉しい煜瑾だった。どちらも子供らしい行動で、無邪気で愛らしい。
それに加えて、この子たちの見目麗しさが際立っていた。
「まあ、なんてカワイイの」「可愛らしいお子さんね」「カワイイお子さんで羨ましい」
通りすがりの買い物客が、振り返るようにして文維や恭安楽に声を掛けた。
「本当に、可愛らしくて、賢そうな子供たちだ」
その時、声を掛けてきた男性に、文維は驚いた。