ふたたび、文維くんのこいびと

「あれ?」

 自分のスマホを開いた文維は思わず声を出してしまった。

「どうしたの、ウィニー?」

 息子の声に、煜瑾を抱いたままの恭安楽が振り返った。

「あ、ああ。いえ…」

 一応返事をしながらも、文維はスマホのアドレス帳を確認するが、やはりそれは無い。

(玄紀のスマホの番号はあるが、実家の申家の電話番号が入ってない…)

 一瞬戸惑ったものの、すぐに文維は気が付いた。

(今の玄紀がスマホを持っていないなら、実家にあるのかもしれないな)

 文維は、これが夢の中なら何とかなるのではないかと、珍しく楽観的に判断した。

「おかあしゃま~、煜瑾はね~、アイスクリームが食べたいのでしゅ~」
「まあ、お母さまも今、そう思っていたの。でも、お父さまのお食事ももうすぐだし、どうしようかな~って考えていたのよ。煜瑾ちゃんと一緒なら、半分ずつして食べればいいわよね?」

 恭安楽は、煜瑾が少な目のアイスクリームで我慢できるようにそう言った。

「おかあしゃまと半分じゅつ、しゅるの~」

 半分しか食べられないとしても、大好きなお母さまと分け合えるというだけで煜瑾は大喜びだ。

「ボクもアイス食べようかな~」
「あいしゅ~あいしゅ~」

 小敏が口を開くと、玄紀も同じようにはしゃぎだす。

「玄紀は赤ちゃんなんだから、アイスなんて食べなくていいよ」
「や~、パパ~、あいしゅ~」

 急に目覚めた父性からなのか、小敏が玄紀のお腹を心配していた。

「じゃあ、煜瑾ちゃん、小敏の分も一緒に、アイスクリームを取りに行きましょうね。煜瑾ちゃんの大好きなイチゴのアイスはあるかしら」
「きっとありましゅよ。文維おにいちゃまが買って来てくだしゃるから~」
「まあ、ステキね」

 それとほぼ同時に、包教授がたくさんの餃子を乗せた大皿をキッチンに運び始めた。

「今夜は煜瑾の作った餃子を食べられるよ」

 煜瑾が喜ぶように、包教授がもったいぶって妻に告げる。

「嬉しいわ。煜瑾ちゃんと、文維と、お父さまのお作りになった餃子なのね。きっと美味しいわよ。楽しみね」
「煜瑾の餃子は、文維おにいちゃまにあげるのでしゅよ」

 心配そうに言う煜瑾を、包夫妻は温かく見つめた。

 そんなありふれた大晦日の穏やかな家族団らんの中、文維は、大人の玄紀が持っていたスマホに電話を掛けた。

(一体、誰が出るんだろうな)

 気楽に考えながら、文維は周囲を見回した。

 仲良くキッチンに消える両親と、可愛らしい煜瑾。
 オヤツを貪りながらテレビを見ている:従弟(いとこ)。
 そして、真剣な顔をしてこちらを見ている:幼子(おさなご)…。

(え?)

 文維にはなぜか、小さな玄紀が自分を睨みつけているような気がした。

「はい。申玄紀です」
「!」

 電話の向こうで聞こえた声に、文維は愕然とした。

「もしもし?文維?何か御用ですか?今日は除夕のイベントで忙しいのですが…」

 それは、確かに文維が良く知る、2つ年下の「大人」の申玄紀の声だった。

「もしも~し。私をからかっているのですか、文維?」
「あ、いや、その…」

 文維は、ジッと見つめる小さな子供から目を離せない。それでいて耳からは玄紀の声が聞こえるのだ。

「え~っと、ゴメン。また後でかけ直すよ」

 取り敢えず何とか言葉を振り絞ってそれだけを言うと、文維は電話を切った。







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