ふたたび、文維くんのこいびと

「さあさ、カワイイ坊やたち、オヤツの時間ですよ~」

 まさに鶴の一声だった。

「は~い」「わ~い」「あ~い」

 あれほど収拾のつかない大騒ぎをしていた子供たちが、手作りのお菓子を持った、文維の母の恭安楽(きょう・あんらく)の一言で、一か所に集まり、ニコニコしながら何かを期待して待っている。

「まあ、どの子もとってもお利口さんね。でも、この中で一番のお利口さんは誰かしら?」

 優しい笑顔の恭安楽の言葉に、子供たちは互いの顔を見比べる。

(そんなもの、煜瑾に決まっているじゃないか)

 文維は口にこそ出さないが、自信を持ってそう見守っていた。

「みんな、先ほどまでお部屋を飛び回っていたのでしょう?オヤツの前に、お手々を洗って来ないと、お利口さんとは言えないわね」

 恭安楽の言葉に、ハッとして子供たちは元気に返事をした。

「はい!」「は~い!」「あ~い!」

 カワイイ3人組は、それぞれ大はしゃぎで、恭安楽を先頭に、お行儀よく一列に並んで、バスルームに向かった。そこで手を洗い、ほんの少し遊んで、リビングに戻ってきた。

「文維、子供たちにミルクを運んで来て」
「あ、はい」

 母の命令に何故か逆らえず、文維は慌ててキッチンに駆け込んだ。

「さあ、3人とも、とってもお利口さんだったので、オヤツは1人2個食べていいことにしましょうね」
「わあ~」「やった~」「あ~い」

 恭安楽は、1人1人の前に自分が焼いてきたブラウニーとチーズクッキーを並べた。

「煜瑾は、おかあしゃまの『ぶらーに』を食べていいのでしゅか?」
「『ぶらーに』じゃないの、煜瑾!これは『ブラウニー』っていうの」
「ぶらーにー、ぶらーにー」

 子供たちはワイワイと騒ぎながらも、食べ始めると嘘のように静かになった。

「さすがです…お母さま…」

 カップにミルクを注いで持って来た文維が、母の手腕に尊敬するように言った。

「あなたのような、気難しい息子を育て上げたのよ。こんなカワイイ、イイ子ちゃんたちなら軽いものだわ」

 自信満々に応える母に、複雑な思いが拭えなく文維だった。

「どういう意味です?」


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