ふたたび、文維くんのこいびと
父である包教授の指摘に、文維は黙って考え込んだ。
これは、煜瑾の夢の中である。
だが、煜瑾が思うようにならないことが起きている。
つまり、誰か別の人間が、これを自分の夢だと思って煜瑾の夢の邪魔をしている。
では、その「誰か別の人間」とは誰なのか…。
「ん~。やはり、ここは申玄紀と考えるのが論理的か」
文維はそう呟いて、ようやく小敏の膝に戻り、ご満悦な玄紀の方を見た。
玄紀は、「パパ」という存在にこだわり、小敏と言うパパを得た。これが玄紀の望む夢であるなら、これで満足するはずだ。だが、夢から覚めそうにはない。
この世界から抜け出すには、まだあといくつかのピースが足りないのだと文維は思った。
「やはり、玄紀と『パパ』の関係が鍵か…」
何から手を付けたら良いのか頭を抱えた文維は、父を振り返るが、包教授は黙々と今夜のための餃子を作っている。
「お父さま…、もしも、我々以外に誰かがこの夢に潜んでいるとして、どうやって探せばいいのでしょう?」
文維は思い余って包教授に相談するが、教授は文維の方を見ようともせずに、作業の手を止めることなく言った。
「私は、玄紀くんよりも、小敏の方が気になるがね」
「え?小敏?」
予想もしていなかった父の言葉に文維は驚いた。
その小敏は、玄紀を膝に乗せ、仕方なくお菓子の包みを開いては口に運んでやっている。
「なぜ小敏は、この世界を夢だと気付き、1人で大人に戻ることが出来たのだろう」
「それは…」
文維は、子供だった小敏が、自分の膝の上で呟いた言葉を思い出した。
(なるほどね、コレは、誰かの夢なのか…)
確かに、その直前に文維がこの世界が誰かの夢だと漏らしたのは確かだ。だが、それをきっかけに夢だと自覚したのではなく、それ以前に気付いていたからこその、あの言葉だったのではないか。
「ただ、小敏がこの夢を支配しているとは思えないな」
ここでようやく包教授は餃子の皮を伸ばす手を止めた。
「お父さま…、何をご存じなのですか?」
混乱してきた文維が、包教授に縋るように訊ねた。
「いや、私は何も知らないよ。ただね、このまま夢の中で新年を迎えてしまったら、元の世界に戻れないような気がするんだ」
「なんですって!」
珍しく大声を出した文維に、全員が振り返り、注目した。
煜瑾が、小敏が、玄紀が、そして母の恭安楽が驚いて自分を見つめている。その視線を冷静に受け止め、文維はこの中に夢から覚めたくない人間がいるのだろうか、と思った。
「文維おにいちゃま?ご気分が良くないのでしゅか?」
心優しい煜瑾が、心配そうに声を掛けた。
(煜瑾…、これは煜瑾の夢であるはず。幼い頃に味わえなかった、両親に思い切り甘えるという憧憬を、夢と言う形で満たしているだけだ。何の悪意も持たない、純真な子供らしい心しかない…)
天使のような煜瑾を怯えさせたくなくて、恭安楽が膝の上に抱き上げた。
「大丈夫よ、煜瑾ちゃん。文維お兄さまは、お父さまとお話をなさっていただけですからね」
「おかあしゃま~」
まるで西洋画の聖母子のように、慈愛深く、清らかに抱き合う恭安楽と煜瑾の姿に、文維の気持ちも癒されるようだった。
(お母さまは、これが煜瑾の夢だと知っている。煜瑾が嫌がるようなことを望むはずがない)
文維が視線を動かすと、すでに文維に興味を失ってしまった玄紀が、小敏の髪を引っ掻き回して遊んでいる。
「や、やめてよ、玄紀」
「パ~パ~」
さすがに小さな玄紀を邪険に扱うことも出来ず、小敏はやられっぱなしだ。
(小敏…、玄紀…)
この世界から抜け出す鍵が、この2人にあるのかと、文維の2人を見つめる目が険しくなった。
これは、煜瑾の夢の中である。
だが、煜瑾が思うようにならないことが起きている。
つまり、誰か別の人間が、これを自分の夢だと思って煜瑾の夢の邪魔をしている。
では、その「誰か別の人間」とは誰なのか…。
「ん~。やはり、ここは申玄紀と考えるのが論理的か」
文維はそう呟いて、ようやく小敏の膝に戻り、ご満悦な玄紀の方を見た。
玄紀は、「パパ」という存在にこだわり、小敏と言うパパを得た。これが玄紀の望む夢であるなら、これで満足するはずだ。だが、夢から覚めそうにはない。
この世界から抜け出すには、まだあといくつかのピースが足りないのだと文維は思った。
「やはり、玄紀と『パパ』の関係が鍵か…」
何から手を付けたら良いのか頭を抱えた文維は、父を振り返るが、包教授は黙々と今夜のための餃子を作っている。
「お父さま…、もしも、我々以外に誰かがこの夢に潜んでいるとして、どうやって探せばいいのでしょう?」
文維は思い余って包教授に相談するが、教授は文維の方を見ようともせずに、作業の手を止めることなく言った。
「私は、玄紀くんよりも、小敏の方が気になるがね」
「え?小敏?」
予想もしていなかった父の言葉に文維は驚いた。
その小敏は、玄紀を膝に乗せ、仕方なくお菓子の包みを開いては口に運んでやっている。
「なぜ小敏は、この世界を夢だと気付き、1人で大人に戻ることが出来たのだろう」
「それは…」
文維は、子供だった小敏が、自分の膝の上で呟いた言葉を思い出した。
(なるほどね、コレは、誰かの夢なのか…)
確かに、その直前に文維がこの世界が誰かの夢だと漏らしたのは確かだ。だが、それをきっかけに夢だと自覚したのではなく、それ以前に気付いていたからこその、あの言葉だったのではないか。
「ただ、小敏がこの夢を支配しているとは思えないな」
ここでようやく包教授は餃子の皮を伸ばす手を止めた。
「お父さま…、何をご存じなのですか?」
混乱してきた文維が、包教授に縋るように訊ねた。
「いや、私は何も知らないよ。ただね、このまま夢の中で新年を迎えてしまったら、元の世界に戻れないような気がするんだ」
「なんですって!」
珍しく大声を出した文維に、全員が振り返り、注目した。
煜瑾が、小敏が、玄紀が、そして母の恭安楽が驚いて自分を見つめている。その視線を冷静に受け止め、文維はこの中に夢から覚めたくない人間がいるのだろうか、と思った。
「文維おにいちゃま?ご気分が良くないのでしゅか?」
心優しい煜瑾が、心配そうに声を掛けた。
(煜瑾…、これは煜瑾の夢であるはず。幼い頃に味わえなかった、両親に思い切り甘えるという憧憬を、夢と言う形で満たしているだけだ。何の悪意も持たない、純真な子供らしい心しかない…)
天使のような煜瑾を怯えさせたくなくて、恭安楽が膝の上に抱き上げた。
「大丈夫よ、煜瑾ちゃん。文維お兄さまは、お父さまとお話をなさっていただけですからね」
「おかあしゃま~」
まるで西洋画の聖母子のように、慈愛深く、清らかに抱き合う恭安楽と煜瑾の姿に、文維の気持ちも癒されるようだった。
(お母さまは、これが煜瑾の夢だと知っている。煜瑾が嫌がるようなことを望むはずがない)
文維が視線を動かすと、すでに文維に興味を失ってしまった玄紀が、小敏の髪を引っ掻き回して遊んでいる。
「や、やめてよ、玄紀」
「パ~パ~」
さすがに小さな玄紀を邪険に扱うことも出来ず、小敏はやられっぱなしだ。
(小敏…、玄紀…)
この世界から抜け出す鍵が、この2人にあるのかと、文維の2人を見つめる目が険しくなった。