ふたたび、文維くんのこいびと
「冗談じゃないよ」
小敏は、包家の広いリビングのゆったりとしたソファの上で、小さな玄紀を膝の上に抱いて、ブツブツ文句を言っている。
「パパ~、パパ~」
小敏の膝に抱かれて、ご機嫌な玄紀は、小敏の真似をするように、お菓子を食べ、テレビを観て、すっかり寛いでいる。
その様子を、キッチンからお茶を運んできた恭安楽が笑いながら冷やかした。
「でも、これくらいの子供がいても、構わない年齢なのよ、あなたたち」
「そういう正論は聞きたくない」
叔母にまで玄紀の父親扱いをされ、すっかり機嫌を損ねたらしい小敏に、玄紀が小さな手でお菓子の包みを渡した。
「ありがと」
こそばゆい感情でそれを受け取り、封を開けた小敏がポイと口に入れた瞬間、玄紀が驚いたような顔をして目を見張り、次の瞬間、つぶらで澄んだ純真な瞳を潤ませた。
「あ?」
モグモグとお菓子を咀嚼しながら、小敏は玄紀の様子に気付いた。
「パパ~、まんま~玄紀のまんま~」
そのまま、玄紀は大きな声を上げて泣き出してしまった。
「まあ!小敏ったら、子供のオヤツを取り上げるとは何事ですか」
ソファの前のテーブルにお茶のセットを置くと、恭安楽は呆れたように小敏に注意をした。
「ち、違うよ!誤解だよ!ボクは、玄紀がボクにお菓子をくれたのだと思って…」
「何を言っているの。玄紀ちゃんのお顔を見れば、パパにお菓子をあげたいのか、袋を破って食べさせて欲しいのか分かるはずよ」
恭安楽はそう言って小敏の隣に座り、泣きじゃくる玄紀を受け取り、しっかりと抱きしめると優しく慰め始めた。
「可哀想に。玄紀ちゃんのお菓子を盗るなんて、悪いパパですね。さあ、新しいお菓子を開けてあげましょうね」
「や~。パパ~」
玄紀は、それでも小敏の膝の上が良かったのか、身を反り返らせ、愚図りながら恭安楽を困らせた。
煜瑾と文維は、仕切りを解放して続き部屋になったダイニングで、包教授の餃子づくりを手伝っていた。
最初のうちはおとなしく生地である「麺」を丸めたり、伸ばしたりして楽しんでいた煜瑾だが、包教授や文維の真似をして、餡を包みたがった。
文維に丁寧な指導を受け、何となくそれなりのものができるようになったのは、さすがに包教授も感心している。
「さすがに芸術肌の煜瑾くんは、餃子の包み方も器用だ」
「おとうしゃま、煜瑾の餃子、美味しそうでしゅか?」
「ああ、とっても美味しそうだね。私は煜瑾の餃子から食べるよ」
包教授に褒められて嬉しそうにした煜瑾だったが、すぐに気付いて申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなしゃい、おとうしゃま。煜瑾の餃子は、文維おにいちゃまにあげるのでしゅ」
大好きな文維を第一番に考える優しさと思いやりを、煜瑾はこんなに小さな頃から身に着けていたのだろうか。文維は嬉しくなって、粉まみれの手で触れることが出来ずに、顔だけを近づけて、可愛い煜瑾の頬に口付けた。
「ありがとう、煜瑾。とっても嬉しいです。でも、みんなが煜瑾のを食べたいと思っているでしょうから、少しはお父さまやお母さま、玄紀にも分けてあげて下さいね」
「小敏は?」
あどけない煜瑾に、文維も頬が緩みっぱなしだ。
「そうですね、小敏にも上げましょう」
そんな時に、玄紀の泣き声が届いた。
「玄紀?」
心配そうに煜瑾が振り返ると、玄紀が恭安楽に抱かれて大泣きしている姿が見えた。
「おかあしゃま…」
心配そうな煜瑾に気付いた包教授は、立ち上がり、その場にあったウェットティッシュで、煜瑾の小さな両手を拭いた。
「さあ、手は綺麗になったから、お母さまのところへ行っても大丈夫ですよ」
煜瑾は嬉しそうに頷くと、慎重に作業中のダイニングテーブルから降りて、玄紀たちの方へ駆け寄った。
小敏は、包家の広いリビングのゆったりとしたソファの上で、小さな玄紀を膝の上に抱いて、ブツブツ文句を言っている。
「パパ~、パパ~」
小敏の膝に抱かれて、ご機嫌な玄紀は、小敏の真似をするように、お菓子を食べ、テレビを観て、すっかり寛いでいる。
その様子を、キッチンからお茶を運んできた恭安楽が笑いながら冷やかした。
「でも、これくらいの子供がいても、構わない年齢なのよ、あなたたち」
「そういう正論は聞きたくない」
叔母にまで玄紀の父親扱いをされ、すっかり機嫌を損ねたらしい小敏に、玄紀が小さな手でお菓子の包みを渡した。
「ありがと」
こそばゆい感情でそれを受け取り、封を開けた小敏がポイと口に入れた瞬間、玄紀が驚いたような顔をして目を見張り、次の瞬間、つぶらで澄んだ純真な瞳を潤ませた。
「あ?」
モグモグとお菓子を咀嚼しながら、小敏は玄紀の様子に気付いた。
「パパ~、まんま~玄紀のまんま~」
そのまま、玄紀は大きな声を上げて泣き出してしまった。
「まあ!小敏ったら、子供のオヤツを取り上げるとは何事ですか」
ソファの前のテーブルにお茶のセットを置くと、恭安楽は呆れたように小敏に注意をした。
「ち、違うよ!誤解だよ!ボクは、玄紀がボクにお菓子をくれたのだと思って…」
「何を言っているの。玄紀ちゃんのお顔を見れば、パパにお菓子をあげたいのか、袋を破って食べさせて欲しいのか分かるはずよ」
恭安楽はそう言って小敏の隣に座り、泣きじゃくる玄紀を受け取り、しっかりと抱きしめると優しく慰め始めた。
「可哀想に。玄紀ちゃんのお菓子を盗るなんて、悪いパパですね。さあ、新しいお菓子を開けてあげましょうね」
「や~。パパ~」
玄紀は、それでも小敏の膝の上が良かったのか、身を反り返らせ、愚図りながら恭安楽を困らせた。
煜瑾と文維は、仕切りを解放して続き部屋になったダイニングで、包教授の餃子づくりを手伝っていた。
最初のうちはおとなしく生地である「麺」を丸めたり、伸ばしたりして楽しんでいた煜瑾だが、包教授や文維の真似をして、餡を包みたがった。
文維に丁寧な指導を受け、何となくそれなりのものができるようになったのは、さすがに包教授も感心している。
「さすがに芸術肌の煜瑾くんは、餃子の包み方も器用だ」
「おとうしゃま、煜瑾の餃子、美味しそうでしゅか?」
「ああ、とっても美味しそうだね。私は煜瑾の餃子から食べるよ」
包教授に褒められて嬉しそうにした煜瑾だったが、すぐに気付いて申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなしゃい、おとうしゃま。煜瑾の餃子は、文維おにいちゃまにあげるのでしゅ」
大好きな文維を第一番に考える優しさと思いやりを、煜瑾はこんなに小さな頃から身に着けていたのだろうか。文維は嬉しくなって、粉まみれの手で触れることが出来ずに、顔だけを近づけて、可愛い煜瑾の頬に口付けた。
「ありがとう、煜瑾。とっても嬉しいです。でも、みんなが煜瑾のを食べたいと思っているでしょうから、少しはお父さまやお母さま、玄紀にも分けてあげて下さいね」
「小敏は?」
あどけない煜瑾に、文維も頬が緩みっぱなしだ。
「そうですね、小敏にも上げましょう」
そんな時に、玄紀の泣き声が届いた。
「玄紀?」
心配そうに煜瑾が振り返ると、玄紀が恭安楽に抱かれて大泣きしている姿が見えた。
「おかあしゃま…」
心配そうな煜瑾に気付いた包教授は、立ち上がり、その場にあったウェットティッシュで、煜瑾の小さな両手を拭いた。
「さあ、手は綺麗になったから、お母さまのところへ行っても大丈夫ですよ」
煜瑾は嬉しそうに頷くと、慎重に作業中のダイニングテーブルから降りて、玄紀たちの方へ駆け寄った。