ふたたび、文維くんのこいびと

 包家のリビングでは、煜瑾が恭安楽が作った一口サイズの可愛いプチシュークリームを美味しそうに頬張り、玄紀は包教授の手作りの、赤いナツメにお餅を詰めて、甘く煮た「糯米紅棗」という上海料理を、両手と口の周りをベタベタにしながら楽しそうに食べていた。

「文維お兄さまと小敏が、煜瑾ちゃんの大好きなイチゴを買って来てくれたら、お父さまが後でイチゴのタンフールーを作って下さるそうよ」
「ほんとうでしゅか!」
「パパ~!タンフー」

 恭安楽の一言で、子供たちは目を輝かせて大喜びした。それを幸せそうに見守る、包夫妻だ。

「パイナップルと、バナナも用意してあるよ」
「きゃ~」「わ~」

 子供たちは嬉しさの余り、声を上げ、互いに手を取り合い、幸せいっぱいの笑顔で、「父」と「母」を見た。

「あらあら、お手々もお顔もベタベタですよ。お兄さまたちがお戻りの前に、キレイにしておきましょうね」
「は~い」「あ~い」

 お利口な小さな2人は、恭安楽と共にバスルームへと手を洗いに行った。

「帰りました~」

 元気で明るい声を張り上げて、小敏が花束を抱えて玄関から入ってきた。
 花に包まれた、見目麗しく、笑顔がチャーミングな美青年の登場に恭安楽は目を細めた。
 その後ろから、たくさんの荷物を抱えた文維が現れた。

「文維おにいちゃま~」

 その姿に、煜瑾が慌てて駆け付ける。

「お荷物、いっぱい!煜瑾が持ってあげましゅね」

 大好きな文維の役に立ちたくて、その長い脚元に絡みつくようにする煜瑾だが、文維はかえって動きを封じられてしまう。

「いいですよ、煜瑾はお手伝いしなくても…」
「煜瑾が、文維おにいちゃまのお手ちゅだいしゅるの~」

 思いやりいっぱいの、真剣な煜瑾に文維も困り果てた。

「煜瑾は、ボクのお手伝いはしてくれないの?」

 それに気付いた小敏が、花束を叔母に預けると、さっと煜瑾を抱き上げた。

「いや~、小敏~!」

 怒った煜瑾は、手足をバタつかせて抗議した。

「煜瑾は~、文維おにいちゃまのおてちゅだいが、したいのでしゅ~」
「やだ~、ボクだって、こんなカワイイ煜瑾と遊びたい~」
「うふふ…や~ん…」

 小敏が上手に煜瑾の気を逸らし、ふざけている間に、文維はリビングを抜けて、荷物をキッチンに運ぶことに成功した。

「お父様?」

 するとキッチンには、古い木製の椅子に座り、小さな玄紀を抱きかかえたまま、蜜柑を剥いている包教授が居た。

「パ~パ~」

 蜜柑が待ち切れない玄紀は、包教授の腕を掴んで催促する。

「え?小さい玄紀は、オジサマ好きなの?」
「小敏!」

 煜瑾の手を引いて現れた小敏は、とんでもなく意味深長な冗談を口にして文維にたしなめられた。文維にしてみれば、清純な煜瑾には聞かせたくなかったのだ。

「今の玄紀から見れば、小敏だって父親くらいの年齢ですよ」
「うっ…。痛いところを突くねえ」

 小敏がそう言って笑うと、煜瑾もよく分からないままに微笑み、包教授の膝に駆け寄った。

「ねえ、おとうしゃま~。文維おにいちゃまが、イチゴを買って来て下さったら、タンフールーを作ってくだしゃるのでしょう?」

 イチゴが大好きな煜瑾が、そう言うと、包教授はそうだったという顔をして、玄紀を膝から下ろそうとした。

「玄紀くん?」

 だが玄紀は、包教授の肩にしっかりと掴まり、身じろぎもせず、ジッと小敏を見つめている。

「やだな~、玄紀ってば、こんなに小さくなっても、まだボクに見惚れちゃって」

 そんな風に小敏がからかうと、玄紀の表情がパッと変わった。

「パパ~!」



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