ふたたび、文維くんのこいびと
文維は小敏の言葉に、半信半疑だった。
「なぜ、うちの父の不在と玄紀が関係するんだ?」
「簡単なコトでしょ。玄紀は包家の叔父さまのお顔を知らない。だから出てこない」
なるほど…と納得しかけた文維だったが、はたと気付いた。
「いや、そんなはずはない。玄紀は何度かうちの父と会っているはずだ」
「え!」
完璧な推理だと思っていた小敏は、その事実に驚いた。
「この春の煜瑾の誕生日パーティーの時だって、ウチの両親も揃って出席していたし…」
「うーん…。あ、叔父さまってば目立たないタイプだから、玄紀は覚えてないとか?」
一瞬でも、この従弟の「迷推理」を信用した自分を反省しながら、文維は溜息をつき、母に頼まれた果物を選びに青果コーナーに足を向けた。
***
「おとうしゃま~!」
その時だった、恭安楽の膝の上で甘えていた煜瑾が、急に身を起こし、目をキラキラと輝かせて叫んだ。
「え?」
驚いた恭安楽が振り返ると、そこには、最愛の夫である包伯言が、優しく微笑んでいた。
「あなた…」
「おとうしゃま~」
キョトンとする妻を不思議そうに見つめながらも、包教授は、妻と並ぶようにしてベッドの端に座り、煜瑾の素直な髪を撫でた。
「言っておきますが、君を子供たちに取られて、嫉妬に駆られて来たのではありませんからね」
そんな愛情のこもった冗談を言いながら、包教授は煜瑾の笑顔と、玄紀の寝顔を、目を細めるようにして見つめた。
「文維がこれくらいの頃は、私も仕事に夢中で、子育ても君1人に任せてしまった。苦労をかけましたね」
穏やかで、知的で、紳士的な夫の言葉に、恭安楽はキュンと胸が締め付けられる気がした。
「そんな…。あの頃、あなたがお仕事に集中して下さったおかげで、今の地位があるんですもの。私も文維も何の苦労もしていないし、不満もなくてよ」
上品な、それでいてもいつまでも少女のような笑顔の妻に、包教授は感謝を込めて頷いた。
「だがね、子供というものがこれほど愛らしいものだったとは、文維の時には気付かなかった」
「あの子は、特別だったから」
当時、1人息子の神童ぶりは自慢ではあったけれども、今、目の前にいる煜瑾や玄紀たちのような無邪気な子供らしさを楽しめなかったのは事実で、そのことで恭安楽も母として複雑な思いは残っている。
「おかあしゃま~、煜瑾は、喉が渇いたのでしゅ」
煜瑾がそう言って、恭安楽に甘えた時だった。
「おや、玄紀くんも起きましたか」
包教授が、パッチリと目を開けた玄紀に気付いた。
玄紀は反射的に声のする方へ顔を向け、そこに包教授を見つけ、ハッと目を見開いた。
「パパ~!パパ~!」
「おやおや…」
玄紀は寝起きとは思えないほど大きな声を上げ、そのままニコニコとしながら、玄紀はベッドの上を這って、包教授の膝の上に辿り着いた。
「まあ、玄紀ちゃんはお父さまが大好きなの?」
自分の膝の上には煜瑾を抱き、夫の膝の上の玄紀を眺めながら恭安楽が言うと、玄紀は澄んだ大きな瞳をキラキラさせながら頷いた。
「パパ~!パパ~!」
「パパじゃないの、玄紀。『おとうしゃま』なのでしゅよ」
年上ぶった煜瑾がそう教えるも、玄紀は気に入らないように首を振った。
「パパ~!」
困った顔をして恭安楽を見上げた煜瑾に、「母」はクスリと笑った。
「煜瑾ちゃんには『お父さま』だけれど、玄紀ちゃんには『パパ』なのね」
「そうなのでしゅか~」
素直に納得したのか、煜瑾はそれ以上気に留める様子もなく、また大好きな「母」にギュッとくっ付いた。
「なぜ、うちの父の不在と玄紀が関係するんだ?」
「簡単なコトでしょ。玄紀は包家の叔父さまのお顔を知らない。だから出てこない」
なるほど…と納得しかけた文維だったが、はたと気付いた。
「いや、そんなはずはない。玄紀は何度かうちの父と会っているはずだ」
「え!」
完璧な推理だと思っていた小敏は、その事実に驚いた。
「この春の煜瑾の誕生日パーティーの時だって、ウチの両親も揃って出席していたし…」
「うーん…。あ、叔父さまってば目立たないタイプだから、玄紀は覚えてないとか?」
一瞬でも、この従弟の「迷推理」を信用した自分を反省しながら、文維は溜息をつき、母に頼まれた果物を選びに青果コーナーに足を向けた。
***
「おとうしゃま~!」
その時だった、恭安楽の膝の上で甘えていた煜瑾が、急に身を起こし、目をキラキラと輝かせて叫んだ。
「え?」
驚いた恭安楽が振り返ると、そこには、最愛の夫である包伯言が、優しく微笑んでいた。
「あなた…」
「おとうしゃま~」
キョトンとする妻を不思議そうに見つめながらも、包教授は、妻と並ぶようにしてベッドの端に座り、煜瑾の素直な髪を撫でた。
「言っておきますが、君を子供たちに取られて、嫉妬に駆られて来たのではありませんからね」
そんな愛情のこもった冗談を言いながら、包教授は煜瑾の笑顔と、玄紀の寝顔を、目を細めるようにして見つめた。
「文維がこれくらいの頃は、私も仕事に夢中で、子育ても君1人に任せてしまった。苦労をかけましたね」
穏やかで、知的で、紳士的な夫の言葉に、恭安楽はキュンと胸が締め付けられる気がした。
「そんな…。あの頃、あなたがお仕事に集中して下さったおかげで、今の地位があるんですもの。私も文維も何の苦労もしていないし、不満もなくてよ」
上品な、それでいてもいつまでも少女のような笑顔の妻に、包教授は感謝を込めて頷いた。
「だがね、子供というものがこれほど愛らしいものだったとは、文維の時には気付かなかった」
「あの子は、特別だったから」
当時、1人息子の神童ぶりは自慢ではあったけれども、今、目の前にいる煜瑾や玄紀たちのような無邪気な子供らしさを楽しめなかったのは事実で、そのことで恭安楽も母として複雑な思いは残っている。
「おかあしゃま~、煜瑾は、喉が渇いたのでしゅ」
煜瑾がそう言って、恭安楽に甘えた時だった。
「おや、玄紀くんも起きましたか」
包教授が、パッチリと目を開けた玄紀に気付いた。
玄紀は反射的に声のする方へ顔を向け、そこに包教授を見つけ、ハッと目を見開いた。
「パパ~!パパ~!」
「おやおや…」
玄紀は寝起きとは思えないほど大きな声を上げ、そのままニコニコとしながら、玄紀はベッドの上を這って、包教授の膝の上に辿り着いた。
「まあ、玄紀ちゃんはお父さまが大好きなの?」
自分の膝の上には煜瑾を抱き、夫の膝の上の玄紀を眺めながら恭安楽が言うと、玄紀は澄んだ大きな瞳をキラキラさせながら頷いた。
「パパ~!パパ~!」
「パパじゃないの、玄紀。『おとうしゃま』なのでしゅよ」
年上ぶった煜瑾がそう教えるも、玄紀は気に入らないように首を振った。
「パパ~!」
困った顔をして恭安楽を見上げた煜瑾に、「母」はクスリと笑った。
「煜瑾ちゃんには『お父さま』だけれど、玄紀ちゃんには『パパ』なのね」
「そうなのでしゅか~」
素直に納得したのか、煜瑾はそれ以上気に留める様子もなく、また大好きな「母」にギュッとくっ付いた。