ふたたび、文維くんのこいびと

 包文維(ほう・ぶんい)は、隣のリビングからの物音で目を覚ました。
 無意識のうちに、隣に眠っているはずの恋人へと手を伸ばす。

「?」

 しかし、そこに、愛しい恋人の姿は無かった。

「え?」

 やっと覚醒した文維は、ベッドの上に起き上がり、リビングから響く、聞き慣れない物音に眉を寄せた。

「子供?」

 それは幼い子供たちの嬌声のように聞こえる。時折、楽しそうな笑い声も混じっている。
 最愛の唐煜瑾(とう・いくきん)とは「婚約」した仲とは言え、もちろん2人に子供などいるはずもない。
 唐家には親戚も多いが、子供を預かるという話も聞いていない。

「まさか…」

 文維は、いつかの決して愉快とは言えない体験を思い出した。
 それを確かめるためには、寝室を出るしかない。腹を括った文維は、ベッドの足元に畳んだままのナイトガウンを乱暴に掴み、サッと羽織ると寝室のドアを開けた。

「きゃ~っ」「まて、まて~」「まって~」

 そこに居たのは、小さな3人の子供だったが、文維には少なくとも2人には見覚えがあった。

「そこまでです、唐煜瑾、羽小敏(う・しょうびん)」

 文維の声に、鬼ごっこに興奮していた子供たちは、ピタリと動きを止めた。
 それもほんの一瞬のことで、すぐに、まるで次の楽しい遊びを見つけたように、3人は声を上げて、心から楽しそうに笑った。

「そして…、多分、もう1人は申玄紀(しん・げんき)ですね」

 呆れたように言う文維を無視するように、3人の子供たちは嬉しそうに文維の長い脚に纏わりついてくる。

「わ~い、文維おにいちゃま~」「文維にいたんだ~」「ぶんい~にいにい~」
(ウソだろ、おい…)

 前回幼児化した煜瑾は、まだ最初の内は大人の意識を保っていた。それなのに、今回は3人が3人とも完全に子供の精神状態らしい。

「ちゅぎは、文維にいたんがオニ、ね!」
「は?」

 突然の小敏の発言に、文維が戸惑っているうちに、小さな子供たちは広い嘉里公寓(ケリー・マンション)の部屋中を駆け回っていく。

「ま、待ちなさい!」

 怪我でもさせてはいけないと、子供たちの動きを止めようとする文維だが、もはや収拾がつかない。
 キャーキャーとはしゃぎながら子供たちは走り回り、文維は振り回されるばかりだ。

(む、無理だ…)

 絶望した文維は、あまり望ましくない手段を選ぶことにした。






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