文維くんといっしょ ~秋の京都観光スペシャル~

 京都の繁華街である河原町(かわらまち)通りを北に向かい、市役所前でシャトルバスは右折する。その角に、市役所を見下ろすようにそびえたつ建物が、今夜から煜瑾たちが宿泊する五つ星ホテルだ。

 荷物をベルボーイに任せ、身軽なまま煜瑾と小敏は1階奥のフロントに向かう。

「チェックインをお願いします」

 予約票と共に、小敏が正確な日本語で上品な女性のフロント係に話し掛けると、彼女は予約票を確認し、小敏と煜瑾にパスポートの提示を求めた。

「とても日本語がお上手ですね」

 中国のパスポートを差し出す小敏に、フロント係はとても感じの良い言い方で話し掛けた。
 日本語を日本人に褒められるのが嬉しい小敏は、パッと明るい表情になる。それがとても屈託なく、人懐っこい笑顔で、目の前のフロント係の女性だけでなく、隣のカウンターでチェックインをしていた日本人の家族連れまでが、つられるようにして笑顔になった。

「ボク、京都の大学に留学してたんです。だから、この街がとっても懐かしくて。今回は日本語が話せない友達と一緒なので、何かあれば助けて下さいね」

 謙虚で、韓流アイドルのような長身で、華やかな小敏のお願いに、フロント係の女性も笑顔で頷き、煜瑾の後ろにいた煜瑾の顔を覚えようと視線を移して驚いた。
 目の前の日本語ペラペラの青年のイケメンぶりにも驚かされたが、その後ろに隠れるようにしていた青年の美貌にも目を見張る。
 それでもプロとして動揺するのはあるまじき行為だとして、フロント係の女性は冷静に見せていた。

「本日より6泊。鴨川(かもがわ)と東山(ひがしやま)が一望できる16階の角部屋のスイートをご用意しております。こちらで良かったでしょうか」

 1泊10万円ほどのスイートルームだが、煜瑾の兄である唐煜瓔(とう・いくえい)が、秘書に命じてホテル側と直接交渉をして決めた部屋だ。景色にしても、居心地にしても保証されていると言って良かった。

「もちろん」

 小敏はフロント係にそう答えると、煜瑾を振り返った。

「とても景色のいい、角部屋のスイートルームだって。お兄様、良いお部屋を取って下さったみたいだね」

 小敏の言葉に、兄を褒められたような気がして、煜瑾は、はにかみながらも嬉しそうに微笑んだ。






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