文維くんといっしょ ~秋の京都観光スペシャル~

 上海からは、まず浦東国際空港に向かい、そこから関西国際空港を目指す。
 上海には虹橋空港もあるが、ここからは関西国際空港を結ぶフライトは無い。

「第2ターミナルからの出発で良かった」

 出国手続きを済ませた小敏は、広々とした出国ロビーを見渡してそう言った。

「どうして?」

 航空券とパスポートをきちんとバッグにしまった煜瑾が、ワクワクした気持ちを抑えきれないような小敏の顔を見て、不思議そうに訊ねる。

「だって、免税店とかが第1ターミナルより充実してるから、出発までの時間つぶしに、楽しい買い物ができるじゃん?」
「???どうして上海の人間が上海の空港で買い物をするのですか?」

 搭乗までの待ち時間と言えば、ファーストクラスかビジネスクラスのラウンジしか知らない煜瑾は、小敏の言う「お楽しみ」が分からなかった。

「……」

 どこまでも、深窓育ちの優雅な王子さまである煜瑾に、小敏は返す言葉が無い。
 その時、自分たちが立つ出国審査場から数10メートル離れたカフェの前に、見知ったグループを小敏が見つけた。

「あ!文維たちがいるよ」

 京都での「研修会」を控えた「上海先進医療研究会」の実行委員メンバーは、行動を共にすることになっていた。
 メンバーは5名。そのうち1人は研究会の主宰であり、上海で最新で最高の医療設備を誇るレイモンド医療センターの代表でもある、楚雷蒙だ。
 その隣で、ひと際背が高く、スマートでモデルのようにスタイルが良い、精神科医の包文維がどこかへ電話を掛けていた。

 最愛の恋人の立ち姿に、見慣れているはずの煜瑾がうっとりと見とれている。

「煜瑾…電話、鳴ってる…」

 小敏に指摘されるまで、煜瑾は文維が電話を掛けている相手が自分だとは気付かなかった。
 慌てて電話に出ようとする前に、文維が煜瑾と小敏に気付いて、電話を切って手を挙げた。

 小敏はすぐに手を振るが、煜瑾は恥ずかしがって笑っているだけだった。




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