甜蜜的聖誕節 ~スウィート・クリスマス~

 さすがに日本の木工職人が作っただけあり、こんな小さな引き出しであるのに、驚くほどスムーズに開いた。

「わあ~」

 それは一口サイズのチョコレートコーティングされたケーキだった。お菓子作りが大好きな恭安楽のお得意のひとつである、ザッハトルテのミニチュア版だ。
 5cm×5cm×5cmくらいの引き出しである。そこに収まるように、一回り小さく作ってあるケーキは、どれほどの手間がかかるか、煜瑾には想像も出来ない。けれど、煜瑾のためにその手間を恭安楽が惜しまず掛けてくれたことは分かる。
 それが嬉しくて、有難くて、煜瑾は涙ぐんでしまった。

「食べるのが…もったいないです」

 煜瑾が震える声で言うのを、文維は優しい笑顔で受け止めた。

「母が、煜瑾に食べて欲しくて作ったのですよ?」

 その気持ちが分からない煜瑾ではない。

 そっと引き出しから取り出すと、まるで祈るように目を閉じ、感謝を込めてパクリとひと口で食べた。ゆっくりと噛み締め、煜瑾が満面の、高雅な天使の笑顔を浮かべる。

「あ~、なんて美味しいのでしょう。いつもの大きなザッハトルテとはチョコレートのビターさが違います。こんなに小さいのにアプリコットジャムの香りも素晴らしくて…」
「そんなに美味しいですか?」

 そう言うと文維は煜瑾の小さな顎に手を掛け、まだチョコで甘い唇を奪ってしまう。一瞬、ビクリとした煜瑾だが、すぐにとろけるように文維に身を任せ、気付けばチョコレートの味を共有するほど、舌を絡めた熱いキスに発展していた。

「ん…、文維ったら、いつもこんな風に、お義母さまのお菓子の味見をするんですね」

 口の中いっぱいに、美味しいチョコレートと愛する人の味を感じて、恥ずかしさを誤魔化すように、煜瑾は言った。

「私は甘いものが苦手なのです。けれど、煜瑾を通してなら、なぜか母の甘いお菓子でも平気なんですよ。煜瑾のおかげで、母の味を思い出せます」
「知りません」

 文維の妙な言い訳を、楽しそうに否定をして、煜瑾はあらためて最愛の人に触れるだけの口づけをした。
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