甜蜜的聖誕節 ~スウィート・クリスマス~

 ジュニアスイートルームの南側の窓からは、ホテルの庭が見える。「花園飯店ガーデンホテル」と呼ばれるのに相応しい、大都会の中の緑だ。
 そして、東側の通りを挟んだ隣には、上海でも有名なクラシックホテルがある。
 去年は、そのクラシックホテルを抜け出して、このホテルまで大冒険をした煜瑾だった。

 文維と煜瑾は肩を並べ、手を繋ぎながら、その窓から街を見下ろしていた。
1年前とは違って見える。
 それは、今が幸せだからだと2人は知っていた。

「煜瑾、お食事の前にお風呂に入って、それからドレスアップしてレストランへ行きましょうか」

 文維が期待を込めて誘うと、煜瑾は意外なほどキッパリとそれを断った。

「ダメです。今、文維と一緒にお風呂に入ったりしたら、必ずレストランの予約の時間に遅れてしまいます」
「そんな事の無いように、私も気を付けますから…」

 煜瑾をジッと見つめ、文維は、ちょっと怒ったような顔をする恋人を、甘い囁きと共に抱き寄せた。

「ね、煜瑾…、少しだけ…、少しだけですから…」

 ねっとりと濃艶に口説き落とそうとする、「元プレイボーイ」の手管に、流されそうになる、初心うぶな煜瑾だが、ここはグッと理性で押しとどめた。

「絶対にダメです!文維の『少しだけ』は、少しで終わったことがありません!」
「…」

 毅然とした煜瑾に、さすがにこれ以上は強引に迫れなくなった文維だった。

「でも…」

 ふいに煜瑾が表情を緩め、頬を赤らめ、そっと文維の胸に顔を埋めた。

「でも、お食事のあと、お風呂に入る時には、文維がいつも私にしてくれるように、今夜は私が文維を丁寧に洗って差し上げます…ね」
「本当に?」

 文維には、とても自分が煜瑾にするような挑発的な入浴中の行為が出来るとは思っていない。けれど、煜瑾のような清純な子に誘惑されるというのは、なかなか面白いと文維は思った。

「じゃあ、その後は私が煜瑾を洗ってあげますね」
「…はい…」

 真っ赤になって顔を上げられない煜瑾だったが、胸は期待でいっぱいだった。

 時間通りに高層階のレストランに行くと、そこは鉄板焼レストランだった。煜瑾は大好きな海鮮や柔らかな和牛を焼いてもらい、いつもよりたくさん食べることが出来た。
 文維もまた、そんな煜瑾を見ながら、食欲も増し、いつもよりほんの少しワインも多く飲んだ。

 スカイレストランの窓からは、上海市内が見下ろせた。予定していた浦東の夜景とクリスマス用のイルミネーションには及ばない、ただの街の灯りだ。
 けれど、文維も煜瑾もそれで十分だと思っていた。

 この街で生まれ、育ち、出会い、愛し合うことが出来た。
 この街があったから、今、2人はこうして幸せなのだと感じることができた。

「私は…、上海が好きです。以前は、どこの街も同じだと思っていましたが、今は、文維が居るから…。文維と2人で居られるから、この街が大好きです」
「そうですね」

 返す言葉は少なかったが、文維も同じ気持ちだった。

「来年も…ここに来ましょうか」

 ふっと文維が口にすると、煜瑾は何も言わずに文維を見つめて頷いた。

 来年も、再来年も、その先もずっと…。
 もしかすると場所は変わるかもしれないけれど、きっと2人は一緒に、クリスマスイブを過ごすことになるだろう。

 そんな確信を持って、包文維と唐煜瑾は、クリスマスイルミネーションに彩られ、いつも以上に明るい淮海路を眼下に見つめた。



MerryChristmas and HappyNewYear, and HappyBirthday.




〈おしまい〉


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