文維くんのこいびと

 当り前の煜瑾であれば、とても出来なかったであろうが、幼い姿の煜瑾は、大人しく恭安楽の膝に座って、彼女が持参した手作りのマドレーヌをパクパクと食べている。
 温かい子供の体温を感じつつ、優しく煜瑾の頭を撫でながら、恭安楽は冷ややかな眼差しで挙動不審な息子を見詰めていた。

「文維…」
「はい、お母さま?」
「あなたが神童と呼ばれ、お父さま以上に賢いのは知っています」
「それは買い被りです、お母さま」

 文維はカワイイ煜瑾の仕草を、泣き笑いの表情を浮かべてみていた。
 見られているのに気付き、ふっとマドレーヌから目を上げ、文維と目を合わせると、天使の煜瑾は至上の清らかさで微笑んだ。

「だからと言って、煜瑾ちゃんを妙な実験に使ったのでは無いでしょうね」
「お母さま!」

 恭安楽は、この状況を作り出したのが、自分の息子であると思い込んでいた。

 文維が言い訳をしようとしたその時、洗濯機のブザーが鳴った。
 恭安楽が買って来た子供服だったが、下着を新品のまま子供に着せてはいけないと、水だけで洗濯をしていたのだ。自動で乾燥までセットしていたので、やっと小さな煜瑾の着替えが揃うはずだった。

「おかあしゃま?私のお洋服のお洗濯ができたようです」

 マドレーヌを食べ終えた煜瑾はカップに手を伸ばし、ミルクをコクコクと喉を鳴らすようにして飲んだ。

「ふ~。では、お洋服を取って来ます!」

 そう言って煜瑾は、恭安楽の膝から下りて、洗濯室へ駆けだそうとした。

「ダメよ、煜瑾ちゃん。転んだらどうするの」

 聡明な文維を育て上げた包夫人は、急いで小さい子供の後を追う。
 2人がリビングから出て行くのを見送り、文維は深いため息をついた。



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