文維くんのこいびと

 煜瑾は、文維の言葉に、驚いて泣き止んだ。

「文維…お兄ちゃま…?」

 涙に濡れた、いじらしい煜瑾の愛くるしい顔が文維に向けられる。

「煜瑾は、文維お兄ちゃまが大しゅきなのに…。お兄ちゃまは…、煜瑾のことがキライなのでしゅね…」

 切ない瞳でジッと文維を見つめる幼い煜瑾は、泣くことも忘れたようだった。

「私は、唐煜瑾を心から愛しています。けれど私の煜瑾は、ただ愛らしく、無邪気で、甘やかされるだけの子供ではありません」

 文維もまた思い詰めた眼差しで、煜瑾の潤んだ黒い瞳を見つめる。

「私の煜瑾は、可愛いだけの存在ではなく、私を支え、助け、励まし、包み込むように愛してくれるのです」

 文維と煜瑾の間に、緊張感が走った。

「煜瑾、私たちの暮らしに戻りましょう」
「文維…」

 次の瞬間、文維は目の前が真っ暗になった。

「あ~ん、あ~ん。煜瑾は~、文維お兄ちゃまが、大しゅきなのでしゅ~。あ~ん」

 子供らしい甲高い鳴き声が、いつまでも文維の耳に残った。

***

 ハッとして文維は目を覚ました。反射的にベッドの上に身を起こし、周囲を見回す。
 分厚い遮光カーテンを使っているが、隙間から漏れる光は明るい朝陽だ。
 それに気付いて、文維はゆっくりとベッドの隣を見た。

「……」

 大きな羽根枕を抱えるようにして、気持ちよさそうに眠って居たのは、文維が愛してやまない、1つ年下の煜瑾だった。

「…煜瑾」

 美しい天使の寝顔に近付き、文維はその耳元に囁いた。

「ん…ぅん…」

 白い素肌を捩り、艶麗な背中を見せる煜瑾に、文維は幸せそうに微笑む。

「煜瑾…。大好きです」
(文維お兄ちゃま、大しゅきでしゅ…)

 遠くから、はしゃぐような子供の声が聞こえたような気がした。





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