文維くんのこいびと

「文維お兄ちゃま?イチゴのババロアはキライでしゅか?」

 イチゴのババロアに大喜びの煜瑾だったが、目の前に座る文維がいつまでもデザートに手を出さないことに気付いた。

「文維お兄ちゃまは、甘いものは食べないのよ。煜瑾ちゃんが食べてあげたら?」
「いいのでしゅか、おかあしゃま?」

 印象的な大きな瞳を輝かせ、煜瑾は至福の笑顔を浮かべる。

「お義母さま、そんなに食べさせては…」

 唐煜瓔が心配して声を掛けるが、恭安楽は大らかに笑った。

「あら、だって、これは煜瑾ちゃんの夢なのでしょう?夢なら好きな物を好きなだけ食べさせてあげればいいじゃないの」
「食べていいのでしゅか?」

 あっけらかんとした包夫人に、期待を込めて煜瑾が訊く。
 さすがにお嬢様育ちの恭安楽は、精神的に柔軟性が高く、現状をすっかり受け入れているようだ。これが現実ではなく夢ならば、誰もが好きなように行動して良いのだと理解していた。

「文維お兄ちゃまにお願いしてみて」
「は~い」

 無邪気で幸せそうな煜瑾に、大人たちも思わず笑顔になる。

「文維お兄ちゃま?イチゴのババロア、煜瑾にあげましゅか?」

 小首を傾げる仕草が、この上なく可愛らしく、唐煜瓔も茅執事も目尻が下がりっぱなしだ。

「煜瑾は、イチゴのババロア、食べていい?」

 もちろん文維も小さな煜瑾に夢中だと思われた。

「ダメです」
「…!」

 文維の拒絶に、煜瑾だけでなく大人たちも驚き、声を失う。

「こんな小さな子がデザートを2皿も食べては、お腹を壊してしまいます」

 冷ややかにそう言って文維は、今にも泣きそうな煜瑾を見つめた。





28/31ページ
スキ