文維くんのこいびと

「では…、私は…、私たちは今、それぞれが夢を見ながら、煜瑾の夢の中にいる、と?」
「はい。そうでございます」

 何の迷いもなく、茅執事は肯定した。
 文維の知性はその「事実」に反発するが、ハッキリと否定できない自分もいる。

「しかし…、『ようやく』でございますね」

 呆れたように茅執事は言った。

「全くだ。今頃、かね?」

 唐煜瓔も、嘲笑的な態度でそう言った。言いながらも文維の方は見ず、溺愛する弟の柔らかな頬を、長く美しい指先でつついている。煜瑾もまた、それが嬉しい様子で、キャッキャッと声を上げて笑っている。

「はい?どういう意味でしょうか?」

 意味が分からず、文維は唐煜瓔と茅執事に、素直に訊き返す。

「煜瑾坊ちゃまの夢には、坊ちゃまが愛しているというだけではなく、ご自身が『愛されている』と実感できる人間しか招かれないのです」

 執事に言われて、文維はハッとする。

 今日まで文維は煜瑾の「深い夢」に招かれることは無かった。それは、煜瑾が文維に「愛されている」という自信が無かったということだ。
 こんなにも時間が掛かってしまったことに、文維は自分の不甲斐なさを感じた。

「それで…」

 文維は重い口を開いた。

「それで、この夢は…、いつ覚めるのですか?」

 そう訊ねながら、文維は執事ではなく、兄と戯れる小さな煜瑾を見つめた。くすぐられて、身を竦め、楽しそうに笑いながら包夫人に助けを求めるように抱き付いていた。

「キャハッハ!お兄しゃま、くしゅぐったい~。おかあしゃま~」

 あどけない煜瑾に、文維の目も細くなるが、どこかまだ切なさも拭えない。

「それは、煜瑾坊ちゃま次第です」

 文維の問いに、茅執事は冷ややかに答えた。





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