文維くんのこいびと

「これが煜瑾の夢なら、なぜ私たちの意識がこんなに鮮明なのですか!」

 医学的に説明がつかないことに、どうしても納得できない文維は、思わず茅執事に苛立ちをぶつけてしまった。

「それは、これが包文維先生の夢でもあるからです」
「はあ?」

 当然のように答える執事に、文維は憤然としている。

「どうして、そんな非科学的なことがあり得るんですか!」

 納得できない不合理に、文維は珍しく感情的になって言った。

「非科学的?」

 文維の言葉に、茅執事は、意味ありげにフッと笑った。その態度が不満だったのか、文維が執事を無遠慮に睨んだ。それでも、茅執事は動じなかった。

「では包先生は、夢のメカニズムは全て解明されていると?」
「メカニズム?」

 確信的な茅執事の言葉に、文維も少し興奮が冷めた気がした。

「夢で未来を知る人がいることは、ご存知でしょう?正夢と呼ばれるものを、あなたは全て否定されるので?」
「正夢…?」

 確かに、医学雑誌にも「正夢」は取り上げられることがある。解明はされてはいないが、夢は個人の脳内だけで説明がつくとは「科学的」にも断言できないものだ。

「夢が、人と人との無意識を繋ぐものだとしたら…そんな風な考えは、本当に非科学的ですか?」

 茅執事の言葉に、さすがの文維も黙り込んでしまった。

(人と人の無意識…)

 そんな文維を前に、茅執事は悦に入ったように続ける。

「煜瑾坊ちゃまの夢の中で、私たちは繋がっているのです。それぞれの夢があり、それを煜瑾坊ちゃまが繋げておられるのです。それが、煜瑾坊ちゃまのお力です」

 そう言い切った茅執事は、敬愛を込めて小さな煜瑾を見守っていた。





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