文維くんのこいびと

「煜瑾坊ちゃまの件については、私からご説明いたします」

 ブロッコリーのすり流しスープと白身魚を片付けようと、煜瑾は黙々と口を動かしていた。そんなお行儀の良い子供に柔らかい視線を送り、茅執事は主人である唐煜瓔に許しを得て、話を始めた。

「このような『現象』は、煜瑾坊ちゃまが年に一度ほどお招きになるのです」
「招く?」

 言葉の意味というよりニュアンスが分からず、文維は聞き返した。
 包夫人は困惑したまま、息子と唐家の執事の顔を見比べている。

「はい。お気付きではないようですが、この世界は煜瑾坊ちゃまの夢の中でございます」
「……?」

 冷静な執事の声で、信じられないほど非合理的な発言を耳にして、聡明な包文維をもってしても理解が出来なかった。

「煜瑾坊ちゃまには、他人を自分の夢の中に招き入れるお力があるのです」

 坦々と語る執事が、とても冗談を言っているとは思えない。だが、文維には彼が何を言っているのか、全く分からないのだ。

「煜瑾坊ちゃまが、このように『深い』夢をご覧になるのは、年に一度ほどですが、その時は、周囲の人々を巻き込んでしまわれるのです」
「まあ、じゃあこれは煜瑾ちゃんの夢の中なのね!」

 さすがに柔軟性のある恭安楽は、すぐに現状を受け入れてしまった。
 執事の説明に納得したのか、包夫人はもう小さな煜瑾の相手を始める。

「これが煜瑾ちゃんの夢の中なら、お母さまのことが大好きだっていうことね」
「煜瑾は、おかあしゃまが、大しゅき~!」

 はしゃぎだした煜瑾を大人しくさせるため、包夫人は煜瑾のスープの最後のひと口をスプーンで運ぶ。大きなお口で美味しそうにスープを頬張り、クスクス笑いながら、慕わしげに包夫人を見つめる煜瑾だった。




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