文維くんのこいびと

「煜瑾坊ちゃま、お兄さまがお帰りですよ」
「煜瓔お兄ちゃま~」

 茅執事の声に、煜瑾はパッと顔を輝かせ、慌てて階段を降りて来た。

「あ、煜瑾ちゃん、気を付けて!」
「おかあしゃま~」

 階段の下で待ち構えていた包夫人の胸に飛び込み、煜瑾は幸せそうに笑っていた。
 ちょうどそこへ、唐煜瓔が帰宅する。

「おや、包夫人。こんばんは」

 いつも通りに端然として、唐煜瓔は恭安楽に挨拶をし、小さな煜瑾に目を向けた。

「煜瑾、ただいま」
「お兄ちゃま、お帰りなしゃ~い」

 幼児化した煜瑾を、当然のように受け入れ、煜瓔は奇異な眼差しさえ浮かべない。

「?」

 この唐家の人々の状況が、文維親子には理解できなかった。

「さあ、包夫人、文維先生、煜瑾が待ち切れないようだ、夕食にしましょう」

 何事も無いように、唐煜瓔はカワイイ煜瑾を抱き上げ、食堂へと先導した。

「あのね、煜瓔おにちゃま、今日のお昼は、おかあしゃまが煜瑾にオムライスを作ってくだしゃったの」
「それは良かったね。さぞ美味しかっただろう?」
「とっても~」

 楽しそうに会話をする美しい兄弟を、包親子は呆然として見ていた。

「どうかなさいましたか、包夫人?」

どう答えて良いものか、恭安楽は困惑して聡明な息子を振り返った。

「あの…、煜瑾について…何も?」

 文維らしくない、しどろもどろな口調で、ついに茅執事に迫った。

「と、申しますと?」

 茅執事は、煜瑾の変化を少しも不思議に思っていない様子だった。

 目の前の現実を受け入れられないせいで、文維はハッキリと言えずにいた。




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