文維くんのこいびと

 目を覚ました煜瑾は、すぐ目の前にいる愛しい人に気付いて、ホッとしたように微笑んだ。

「文維?」

 だが文維の方は、まるで時間が止まっているようにその端整な顔をこわばらせ、微塵も動かない。

「ぶ…、え?」

 恋人のただならぬ様子に、心配して手を伸ばそうとした時、煜瑾は「その異変」に気付いた。

「そ、そんな…バカな…」

 文維の理知的な白面が歪んでいく。

「こ、こんな…、こんな非科学的な…」
「ぶ、文維…これは、一体…」

 煜瑾はすっかり怯え、大きな黒い瞳から涙が溢れるように零れ落ちる。そんな変わりはてた恋人に、文維はドキリとした。

(か、カワイイ…)

 衝動的に文維は煜瑾の腕を掴み、その身を胸の中に引き寄せていた。

「ぶ、文維…。私は、いったい…」
「煜瑾。心配しないでいいですよ。私が、きっとなんとかします」

 文維は腕に余る煜瑾に戸惑いながらもそう言った。

 煜瑾は、中身はそのままに、その姿だけは3歳児となって、文維に抱かれて泣いていた。

 文維は腕の中の煜瑾を優しく抱きしめ、イイ子、イイ子と何度も頭を撫でた。

「どうして…、こんなことに?」

 小さな煜瑾は、ちょこんと文維の膝の上に収まり、困惑している。その幼くとも苦悩する姿が、3歳児と言えどもどこか悩まし気に見えてしまう文維だった。

「何か…医学的な解決法が無いか調べてみましょう」

 そう言って文維がベッドサイドの時計を見ると、まだ明け方前の4時過ぎだ。
 泣きながらも、煜瑾は文維に抱かれたまま、うつらうつらし始める。それがあまりに3歳児らしい行動で、幼く、愛くるしい。

「文維…、わ、私…もう…」

 何か言いかけて、煜瑾はそのままスース―と寝息を立てて眠り込んでしまった。






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